尋常性乾癬と麦門冬湯 | kyupinの日記 気が向けば更新

尋常性乾癬と麦門冬湯

精神科の患者さんには湿疹系の合併症は多いが、尋常性乾癬も合併している人は見たことがない。尋常性乾癬は調べてもらえばわかるが、なかなか治療が難しい疾患だ。頻度的には珍しい病気だろうと思う。珍しいけど、名前は有名というか。おそらく尋常性乾癬は免疫系の疾患と思われるが、ストレスや生活習慣も関係あるのだろう。


もう10年くらい前だろうか、当時勤めていた精神科病院の女性看護師さんに、急にこの病気が出て非常に困っている人がいた。皮膚科に行ってもなかなか治らないんですよ、とか言っていたが、(僕は皮膚科の授業レベルしか知らなかったので)、なんともよい方法というか、アドバイスはできなかった。ある時、その看護師さんは感冒から気管支炎になりなかなか治らなかったらしい。僕に相談に来たので、漢方の麦門冬湯を処方した。なぜかというと、抗生剤などを服用していても全然よくならず、もうそういう時期ではないと思われたからだ。


この麦門冬湯は、ユリ科の多年草、ジャノヒゲの根の膨大部が使われており、補陰・潤肺・止咳の効能があると言われる。普通は、慢性気管支炎のような咳が止まらない状態に処方するが、漢方のくせにいやに即効性がある。効く人はその日のうちにけっこう咳が収まる。一般には、乾燥性咳嗽・粘稠痰・口渇・便秘・喀血・煩躁・動悸・不安感などに用いられる。不安感などとあるが、普通は麦門冬湯を精神症状に処方することは僕はない。


この看護士さんだがこの麦門冬湯を服用していたら、頭髪部位の尋常性乾癬がほとんど良くなったんだな。体、特に関節部位については、治癒はしないけどかなり症状が軽減したと話していた。じゃ、たいした効果というほどではないですね、と言うと、頭髪の痒みが良くなっただけでも大違いと話していた。それから数年たち、大学の同窓会があった。ちょうど開業したばかりの皮膚科の友人がいて、この話をしたことがあった。彼は、そんなに効くなら使ってみようと言った。後日だが、彼と会う機会があったので麦門冬湯の効果について聞いてみた。彼によれば、尋常性乾癬の頭髪部分の効果が大きいのだという。しかし頭髪部位以外の効果は6割ほどで、少し効果が落ちるらしい。トータルではかなり有効で何人か処方していていると聞いた。尋常性乾癬は、普通、温清飲、十味敗毒湯くらいが処方されていると思われるが、彼からこれらの薬の話が出てこないので、たぶん麦門冬湯の方がより有効なのじゃないのかしらん。珍しい疾患とはいえ尋常性乾癬で困っている人はずいぶん多いので、多くの人を助けるためにも、このことを発表してほしかったんだが、彼は開業しているので難しいという。(大学病院なら良さそうだが) 結局、麦門冬湯には尋常性乾癬に対し適応がないので、1つの個人病院でそんな理由で処方していることを公にするのは少しまずいらしい。日本では、ほとんどが保険診療なんだし。


精神科でも、人知れず良い治療法が存在するわけであるが、どの業界でも同じようなことってあるんだなと思った。効果のメカニズムであるが、彼によれば顆粒球やリンパ球の遊走を抑えることで効果が出ているんじゃないのだろうかと話していた。僕は、それまで慢性的な呼吸器系の炎症を改善するので免疫に関与するのではないのだろうかぐらいに思っていた。まあどんなメカニズムかわからないが、とにかく有効なのである。