デプロメール | kyupinの日記 気が向けば更新

デプロメール

一般名;フルボキサミン
(=ルボックス)


日本で初めて発売されたSSRI。海外からの導入品で、明治製菓からデプロメール、アステラス製薬およびソルベイ製薬からはルボックスの名前で発売されている。効能、効果は、うつ病、うつ状態、強迫性障害、社会不安障害となっているが、社会不安障害の正式な効能がある薬物はフルボキサミンに限られている。強迫性障害の効能もフルボキサミンのみであったが、最近、パキシルも効能が追加されている。一般にSSRIは強迫性障害、社会不安障害に効果がある。実は、アメリカでフルボキサミン(ルボックスの名前で発売)は強迫性障害に効能があるが、うつ状態、うつ病には効能がない。アメリカでは非常に限られた範囲で処方されている。フルボキサミンは、半減期は9~14時間と言われており、活性代謝物はないと言われている。薬物代謝酵素はCYP2D6が関与する。精神科薬物ではオーラップは併用禁忌である。


最初のSSRIとしてフルボキサミンは発売されたが、当初は期待はずれの印象があった。なぜなら、フルボキサミンはうつ病への大きな効果があると言うには今ひとつであったからだ。この程度なら従来型の抗うつ剤の方が効果が高く、重いうつ状態に対しフルボキサミンで開始した場合、2度手間になった。少し落ち着いても、他の抗うつ剤に変更した時に更に改善することが多かったからだ。初期に嘔気が見られるが、これは2~3日すると消失することが多いので、一応患者さんに説明して処方していた。稀にずっと嘔気が取れない人がいて、こんな人はこの薬が合わないと言えた。胃腸薬を最初にあわせて処方することも推奨されている。他の副作用として若干の眠さが出現するがひどいものは少ない。デプロメールは嘔気以外、比較的服用しやすい薬物である。


剤型は25mg、50mgとあり、最初50mgから開始し150mgまで増量するとなっているが、75~150mgの間で処方されていることが多い。たまに強迫を伴う過食症などの場合、300mgくらい処方することもある。強迫性障害の場合、少し大目のSSRI投与が必要な場合があり、パキシルでも50mgまでの処方を認められている。(パキシルはうつ病は40mgまで)僕は、今まで何人か300mgまで処方しているが、一度も減点されたことがない。(一筆書いてはいるが)うちの県では、薬物のオーバーは厳格にチェックされることが多く、例えばジプレキサの場合、20mgを超えると一筆書こうが書くまいが絶対減点されるw フルボキサミンは薬価が、25mgが約50円、50mgが約87円なので比較的安いからであろうと思われる。(高価な薬が減点されやすい)


フルボキサミンは発売以降順調に売り上げを伸ばし、特に精神科の専門以外の病院に深く浸透した。やはり、最初のSSRIであったことが大きい。小さな医院(内科)でもルボックスかデプロメールが意外に入っている。それに対して、パキシルは意外に入っていないような気がする。もし最初のSSRIがパキシルであったなら、精神科の仕事が少し減っていたんじゃないかと思われる。(内科で簡単に治ってしまうため)


フルボキサミンの良い点は、切れ味がやや鈍いので、結果的に余計なことをしないことに尽きる。これは非常に大きいメリットである。パキシルほどの力価があると、患者層によればやや危険だ。もともとSSRIは決断力みたいなものを出すので、特に若い人に自殺を増加させるリスクがあった。2000年以前だが、プロザック(本邦未発売)を服用中、暴力行為や自殺などの有害作用が生じるというので、アメリカで裁判になった。この結果だが、かろうじて薬品会社が勝ったが、かなり政治的な影響もあったような気もする。もし患者側が勝っていたなら、全世界の患者にとって大変なマイナスの事件になったであろうと思う。パキシルは若い人に投与すると、自殺などの有害作用が生じかねないので、若年者(18歳未満)の患者には投与禁忌という時期もあった。これは非常に困るという苦情が出たのであろう、今は禁忌でなく警告になっている。フルボキサミンの場合も使用上の注意としてこのことが書かれているが、警告にはなっていない。フルボキサミンは若い人にはパキシルより安全と位置づけられているのである。


フルボキサミンの効果は、よく言えばマイルドなので、若い人や年寄りには処方しやすい。フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)は、パキシル発売以後売り上げを逆転され、その後パキシルに大きく差をつけられているが、今でも売り上げは伸びているという。治療者側から見ると、パキシルよりフルボキサミンがより良いと思われるケースがけっこうある。あと、統合失調症におけるうつ状態に対しても、フルボキサミンは比較的使いやすい。精神面を悪化させることも少ない印象がある。一般に、統合失調症に抗うつ剤を投与した場合、もとの精神症状を悪化させうまくいかないことがある。個人的な印象を言えば、リスパダールとは相性が良い。


あと大量服薬をした場合リスクが小さい。これはSSRI全般に言えるが、大量服薬でやや危険なSSRIもあるのである。今から数年前だが大量服薬で未だ死亡者が出ていないと聞いたことがあった。13g(13000mg)飲んだ人は死ななかったらしい。ただ大量服薬の場合、1剤の大量服薬はむしろ少ないくらいなので、数種類大量服薬した時にフルボキサミンが含まれていた場合などはよく知らない。そんな感じの薬剤だが、うちの病院でも今でもデプロメールは、年々処方数が増えている。余談だが、うちの病院ではフルボキサミンはデプロメールを使用している。明治製菓は薬品数が少ないし特に精神科で主だった薬はデプロメールとメイラックスしかない。アステラスはかなり精神科薬物を持っていて特にセロクエルが大量に売り上げるのもあり、事情を話してルボックスを入れずデプロメールにしてもらっている。ルボックスとデプロメールは全国的にはややルボックスが多いのかもしれないが大きな差はない。同じように売れているのである。