マイスリー | kyupinの日記 気が向けば更新

マイスリー

一般名;ゾルピデム


超短期型の睡眠薬。半減期は2時間。藤沢薬品(現アステラス製薬)から発売されているが、藤沢の自社製品ではない。剤型は5mgと10mg。切れ味が良いので評判が良い方に入る。ドラールの時に話したように薬価が高い。このマイスリーが発売された当時、ハルシオンの健忘の副作用がしばしば話題になっていた。翌日、眠さが残らないからといって、やみくもに半減期の短い眠剤を多く処方するのもいかがなものか?という風潮があり、長期型で副作用が少ないドラールがタイミングよく発売になった。ちょうど同じような時期にマイスリーは発売された記憶がある。


マイスリーは、確かにハルシオン(半減期2時間)やデパス(半減期6時間)に比べて健忘が少ないような気がする。というか、患者さんのそんなエピソードが少ない。健忘というと認知症っぽい症状に見えるが、眠剤の健忘はちょっとニュアンスが違う。例えば、「ハルシオンを飲んで寝たら、朝起きてみると、洗濯物がすべて室内に干してあって、汚れていた茶碗もすべて洗ってあった。が、全然そんな記憶がない。」と言った感じ。(2人で大笑い) これって、明らかに老人の健忘のような症状とは違うでしょ。マイスリーは、正確には統合失調症やうつ病(躁うつ病も含む)の不眠には適応がない。だから、例えば統合失調症の不眠には使えない。これは大変な制約である。なぜこうなったかというと、治験時にこんな風に制約をつけた方が早く認可されるからという話であったが正確なところは知らない。もちろん、外国では統合失調症や躁うつ病でも処方できる。日本だけのローカルルールなのである。


うつ病の診断では処方できないが、そう書かなければできるので、仕方なく例えば「抑うつ神経症」とする。えらい違いなので、これは苦肉の策。なぜこうなのかというと、うつ病の人には例えばパキシルやアモキサンなどの抗うつ剤が処方されているので、整合性があわなくなるからだ。もちろん、パニック障害プラス不眠症でも良いのだが、パニックなんて全然ない場合など、あまりにもかけ離れたりすると、精神科医としてちょっと心が痛む。レセプトをチェックする人は精神科について素人の場合が多く、抑うつ神経症ならまず合格する。というか、多分そこまでは見ていないんだろうと思う。精神科医がレセプトをみる場合は、あまりにもバカバカしいルールであるのを知っているので、かえって通してくれることもあるが、これは人による。まあ、通らない可能性の方が高いと思うけどね。マイスリーは切れ味が鋭い方なので、統合失調症に使えないのは痛手が大きい。統合失調症の場合、うつ病圏内の診断に比べ変更が効きにくいからだ。統合失調症とうつ病に使えないような眠剤は、基本的にただの不眠症の薬と位置づけられいるんだろうな。それでもなお、マイスリーはかなりの数が処方されていると思われる。ドラール、マイスリーは従来の眠剤の副作用を減じた現代的な薬剤だからだ。

参考
マイスリーと妊娠