トリプタノール | kyupinの日記 気が向けば更新

トリプタノール

一般名:アミトリプチリン

トリプタノールは代表的な3環系抗うつ剤の1つで、抗うつ剤の中では最強に属するものと考えられる。薬物プロフィールとしてはトリプタノールはセロトニン優位だが、体内で代謝されてノルトリプチリンになってしまうので複雑である。ノルトリプチリンは商品名はノリトレンで、これはノルアドレナリン優位である。全体のNAと5HTのバランスは微妙だが、いくらかノルアドレナリン優位と思われる。トリプタノールは半減期は8~24時間で作用時間は長い。代謝物のノリトレンの半減期もかなり長く18~96時間と言われており、トータルで考えて半減期の長い薬物といえる。トリプタノールはH1受容体阻害作用を持ち、眠さの副作用がみられる。3環系抗うつ剤で体重増加をきたすことがあるが、このH1受容体阻害作用が関係していると考えられている。また鎮静に関係するα1受容体阻害作用も強い。代謝活性物質のノリトレンはトリプタノールの欠点である口渇、便秘、起立性低血圧などの自律神経系の副作用は(トリプタノールに比較し)少ない。

 

パキシルなどの比較的効果が強いSSRIでうまくいかない場合、しばしばトリプタノールくらいまで行ってしまう。トリプタノールは「眠さ」という副作用があるため、これで効果的であったとしても、実用にならない場合もある。なぜなら、眠すぎると仕事にならないからである。これでは職場に復帰できない。僕は、アモキサン、アナフラニール、トフラニールくらいで治療していて、まあまあ良い治療状態だが、あと1歩と思われる時、トリプタノールに一部変えてみることがある。たいていトリプタノールへの変更のため、以前より良いと言われることが多い。トフラニール、アナフラニールくらいを支障なく服用できる人は、トリプタノールも大丈夫なことが多い。

 

意外なことに完全にトリプタノールに変更するのではなく、一部だけトリプタノールにしてほしいと言う希望の人がいる。なぜそうした方が良いのかよくわからないが、その方がバランスが良いのだと言う。だから、アモキサンとトリプタノールの2本立てという変な処方になってしまった。1人だけではなく、時々こういう人がいるということは、きっとその方が良いのだと思う。こんな変な処方はまぁ良いのだが、レセプトをチェックするドクターが専門医の場合、何を考えているんかな~と思われそうなのがちょっと。こういう処方は、抗精神病薬の場合もそうだけど、バカっぽく見えるのが辛い。

 

うちの病院はトリプタノールの10mg錠は置いておらず、25mg錠だけでやりくりしている。たいてい25mgか50mgでスタートし、150mgを目指す。75mgで十分良くなる場合はそのままだ。75mgはなんとか飲めても、100mg以上はきつさ、口渇、眠さなどの副作用で難しいということもある。尿閉が出ると、この症状を改善する気の利いた方法があまりないのと、仮にちょっと良くなったとしても本人の苦痛が大きいので、この薬を諦めることが多い。トリプタノールは、僕は最高225mgまで使用したことがあるが、これは本当にうまくいかなかった人で、普通は150mgぐらいを最高量にしている。はっきり言ってトリプタノールは150mgより多く使いたくはない。

 

トリプタノールは、本当に強い抗うつ剤なのだが、この薬で良くならない人も現実にはいるのである。トリプタノールでうまくいかない場合、他の抗うつ剤で使ったことがないようなものがある場合、順番に試してみる。トリプタノールは確かに強い抗うつ剤だが、人により個人差があり相性があるからだ。たいていの3環系抗うつ剤でうまくいかない場合で、病状が深刻な時は電撃療法を考慮する。医師によれば、とっくに電撃療法をする人もいるだろうが、ゆっくりした経過の場合は、薬で可能なら薬でやっていく方針ではある。

 

電撃療法は重いうつ病の患者にかける場合、非常に有効ではあるし長期的なデメリットがあまりないように見える。しかし電撃療法は永久には効かないので、いずれ薬物療法でコントロールしなければならない。いずれ薬物療法を考慮するなら、急いで電撃療法をするのではなく、なんとか薬物で頑張るべきだ。僕はそういうスタンスではある。期間をおいて電撃療法を繰り返す方法もあるが、僕はそんな方法は好きではない。それしか方法がないなら別だが。その時、電撃療法をしなければ、ちょっと目を離した隙に自殺してしまうような急を要するような患者の場合、電撃療法は十分な適応になる。なぜなら、もう薬物では間に合わないからだ。うつ病の自殺企図や、亜昏迷状態には電撃療法は奏功することが多い。今回は電撃療法の話ではないので、このくらいにしておきたい。

 

ごく最近、トリプタノールでまったく効果がないという患者さんに久しぶりに遭遇した。この患者さんはたいてい薬物はあまり効果がないか無効だったが、アンプリットがまあまあ良かった。アンプリットで軽快退院したが、こんなこともあるのである。アンプリットは面白い薬物でいずれ話したい。

(これは2000年頃にウエブにアップしたものをいくらか加筆、改変したものです)