欲しいのは、水掻き。 | 境界線型録

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I Have A Pen. A Pen, A Pen Pen Pen.


 鴨には水掻きがつきものなのに、人間についていないのは不愉快千万。なので、今夜はたいへん機嫌が悪いのです。
 なぜなら、雪掻きで疲労困憊したから。



 雪掻きするにも、人類は雪掻き専用シャベルなど無骨な道具を用いなくてはなりません。わが家は曲がりなりにも東京都という世界に冠たる大都会の片隅にありますが、たいてい二月頃になるとドカ雪に見舞われて雪掻きをすることになります。
 今年はやや早めの雪掻きになり、午後三時頃降雪がまばらになると、すかさず雪掻き専用シャベルを手にして雪を掻きに表へ飛びだしたのでした。
 別に雪掻きが好きなわけではありません。どちらかというと嫌いな方で、どうせ掻くなら背中や耳の方が好みではあり、雪掻きシャベルよりは孫の手や耳掻きの方を愛好するものであります。
 が、車が動かせなくなると困るので、雪掻きシャベルを手にして、やらざるを得ないのです。

 雪掻きシャベルは土木用銀トンボなどに比べるとヤワで軽量ですが、作業効率を上げるためか、幾らか匙状部分の面積が大きくなっていて、雪をたっぷり載せるとそれなりの重量になります。
 滑らかな路面であればこれで雪を押し集め、道端へ寄せていけば良いのですが、当方の路面は急坂のためタコの吸盤みたいなドーナッツ状の凹みを加工してあり、またマンホールの蓋など突起物も多くあり、シャベルをスムーズに滑らせることができません。十センチも移動すると、きっと、ガチッと障害物に引っかかるのです。

 そこで、ザクッと雪を掻き取ると、道端へぶんと放り投げるのですが、これがけっこうな重労働でして、足腰にも腕にも背にも堪えます。

 ああ、この手にあの鴨のような水掻きさえあれば、といつも思うのです。
 なにも水掻きだからといって、水を掻くばかりが能ではありません。鴨は気がついていないかも知れませんが、実は雪も掻けるはずなのです。
 あの鴨に恵まれた水掻きさえあれば、この素手でさくさくと雪掻きできるのに、と思うのです。

 例えば、道端へ尻を向けて四つん這いになり、水掻きの手で雪をさくさくと掻き集めては、股ぐら越しに、ここ掘れワンワンとばかりに後方へ掻き飛ばすわけです。
 尻から雪煙を噴き上げるラッセル車のように、それはダイナミックな光景でしょう。暮れゆく真冬の都会の片隅に、もうもうと湧き上がる雪煙。想像しただけで、幻想の楽園に迷いこんでしまうかのようではありませんか。

 そのような理想的な雪掻きを夢想するだに、雪掻きシャベルなど無骨なものを振りまわしては、せっせと穢れない純白の雪を放り投げる、己の姿が憐れでならないのであります。
 おお、造物主よ、何故にあなたは人間に水掻きをお恵みにならなかったのでしょうか?




 という事情で、今夜は肉体疲労+筋肉痛でダウン。