蝋燭の灯りに照らされ浮かび上がる光景、それは……。
鸚鵡は彌撤の声をあげず、鷦鷯は囀りを忘れ、麒麟は糠の寝床で微睡み、櫃の中で蝙蝠が蟷螂を貪る乾いた音だけが響く。
微動だにせぬ鞦韆に居座る髑髏の目から躑躅の花が。
藪の中の明礬の岩に隠れ、酸漿の目を輝かせて密かに眺める顎のない轆轤首。
錫と燐とが交合し始め、砒素に酔った鶺鴒が喚きだし、鸚哥は硫黄に噎せる。
蟒蛇を貪りつくした鮟鱇は陶然として去り行くのみ。
憂愁の臥所に襤褸布をそっと被せて、全てを鬱勃の闇に葬らん。
(「鬱勃の闇」(2010/04/12 )より)