十川信介著『近代日本文学案内』からちょっと | 無精庵徒然草

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無聊をかこつ生活に憧れてるので、タイトルが無聊庵にしたい…けど、当面は従前通り「無精庵徒然草」とします。なんでも日記サイトです。08年、富山に帰郷。富山情報が増える…はず。

 日々、気忙しく過ぎていく。
 日記…。今日も半端なものしか書けないで居る。
 纏めきる余裕がなさそうなので、ここらでアップしておく。


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→ 十川信介著『近代日本文学案内 』(岩波文庫別冊)



正宗白鳥著『作家論』 」では、正宗白鳥が尾崎紅葉(の『金色夜叉』)をどう評価しているかについて(も)書いている。
ハムレットとスミレとオフィーリアと 」では、拙稿「尾崎紅葉『金色夜叉』あれこれ 」から引用しつつ、何処かの藪の中、巌のある滝壷に宮は身を投げる最後の場面は、「シェイクスピアの『ハムレット』で有名なオフィーリアの水辺での死の場面を意識している。あるいはジョン・エヴァレット・ミレーの描く「オフィーリア」(1852)そのものだ 」として、その周辺を巡っている。


 胃癌の苦痛に耐えつつ、断続的に書いた『金色夜叉』だが、この小説を書く尾崎紅葉の女性観は、小説の描き方でも察せられるが、当時の成年男子には喝采(?)を浴びる所以を示すようでもある。


 十川信介著の『近代日本文学案内 』(岩波文庫別冊)によると:

 紅葉が泉鏡花、柳川春葉、小栗風葉ら門弟を前に、女性に関して気焔を挙げた談話がある(『文家雑談』明31)。「紅葉氏が恋愛論、婦人論、良妻論」のサブ・タイトルがついている。それによると、彼は「真実(ほんとう)の恋愛」は「肉交一分で九分通りは精神」だと信じていた。「女は矢張り容貌(みめ)より心」で、才はじけた女は困る、妻には遊芸も裁縫の技術もいらないが、両親から温かい「家庭の教育」を受けた女性が最適で、そういう妻との恋愛はもっとも綺麗なものだという。妻を「自分の理想」に従わせるのが夫の腕で、男が外で芸者遊びをして帰っても、家政を取りしきり、夫を待って「洋燈(ランプ)の側で仕事でもしてゐる」のが「妻君の腕」なのである。透谷らの「恋愛」とは大違い、今なら全女性から総スカンを食いそうな女性観だが、彼はそれが「西洋主義」で「男女同権」だと信じていたらしい。独歩が硯友社を「洋装せる元禄文学」と評した一面は、ここにも現れている。

 余談だが、十川信介著の『近代日本文学案内 』(岩波文庫別冊)は、切り口がユニークな本で、近代日本文学を網羅していると言えるのかどうかは小生には分からないが、以下に示す章立てで見てみるのも一興だった。
 …と言いつつ、小生がいかに古典のみならず、近代の日本文学も読んでいないか、その前に知らない作家や作品がいかに多いかを痛感させられた。

 せっかくなので、本書の構成を以下に示す:
1 「立身出世」物語―「故郷」と都会の往還(時代の主流を形成してきた立身出世の欲望)
2 近代文学のなかの別世界―他界と異界のはなし(現実社会に飽きたらぬ、またそこからこぼれ落ちた人びとが紡いだ別世界の願望)
3 移動の時代―「交通」のはなし(新たに登場した交通機関、通信手段と文学との関わり)

 以上のうちの「3」で、「交通」というと「汽車」が目新しい機関として文学シーンに登場したことを容易に想像されるが(『雪国』など)、「人力車」だって「馬車」だって、現れた当時は時代の最先端の乗物だったことを改めて気づかされる。

 3部のうち、「1」も「3」も興味深い記述が少なからずあったのだが、小生は特に「2」が興味深かった。
 小生の性分や嗜好、あるいは資質の故なのだろうか。

 ここでは詳しく扱う余裕がないが、以下、本書のこの第二部で<発見>した作家(の作品)を名前だけ列挙しておきたい。

 いつか、読みたい、あるいは読み返したいという意味を籠めて:

三遊亭円朝『累ヶ淵(かさねがふち)後日怪談』
北村透谷『他界に対する観念』(『蓬莱曲』)
嵯峨の屋おむろ『夢現境(むげんきょう)』
幸田露伴『風流仏(ふうりゅうぶつ)』(『対髑髏(たいどくろ)』
泉鏡花『高野聖』(『春昼』)
江戸川乱歩『押絵と旅する男』(『人間椅子』、『鏡地獄』、『パノラマ島奇談』)
漱石『夢十夜』(『幻影の盾』、『明暗』)
柳田国男『遠野物語』
永井荷風『狐』
折口信夫『身毒丸』(『死者の書』)
内田百閒『冥途』(『サラサーテの盤』、『大尉殺し』)
志賀直哉『濁つた頭』
中村古峡『殻(から)』
中原中也『在りし日の歌』
萩原朔太郎『月に吼える』
長田(ながた)幹彦『自殺者の手記』
徳田秋声『浜の女神』(『雲のゆくへ』)
正宗白鳥『妖怪画』(『地獄』)
田山花袋『髪』(『ある僧の奇蹟』、『山上の雷死』)
島崎藤村『春』(『夜明け前』)
岩野泡鳴『放浪』
谷崎潤一郎『青い花』(『友田と松永の話』、『吉野葛』、『白昼鬼語』)
中島敦『山月記』
川端康成『水晶幻想』(『水月』)
稲垣足穂『一千一秒物語』
梶井基次郎『Kの昇天』
芥川龍之介『二つの手紙』
牧野信一『吊篭と月光と』(『ゼーロン』)
坂口安吾『風博士』(『夜長姫と耳男』
尾崎翠(みどり)『第七官界彷徨』
夢野久作『ドグラ・マグラ』
宮沢賢治『春と修羅』
松原岩五郎『最暗黒の東京』
佐藤春夫『F・O・U』
小川未明『赤い蝋燭と人魚』
辻潤『ですぺら』
小栗虫太郎『黒死館殺人事件』
岡本かの子『川』
中島敦『文字禍』



関連(?)拙稿
愛本のちまきから泉鏡花の高野聖へ
宮沢賢治…若き日も春と修羅との旅にあり
「蜘蛛の糸」を裏読みする
尾崎紅葉『金色夜叉』あれこれ(付:余談)
坂口安吾著『桜の森の満開の下』
芝浦のこと、「城の崎にて」のこと
「口ぶえ」と折口信夫の性愛
岡野 弘彦著『折口信夫伝』
荷風散人『断腸亭日乗』雑感
蒼い月(前編)
正宗白鳥著『作家論』
読書拾遺(白鳥と芥川)
中島敦著『南洋通信』
正宗白鳥著『作家論』
ハムレットとスミレとオフィーリアと
島崎藤村『春』を読みながら

                              (08/12/10着手)