オリジナル小説 「ABCDEFG」(後編) | 映画熱

オリジナル小説 「ABCDEFG」(後編)

F君は、自己紹介がうまくできなくて、クラスにうまく溶け込めませんでした。

 

転校して来て数日は、物珍しさで、色んな人が寄って来ましたが、

 

一週間もすると、誰も、彼に近寄らなくなりました。

 

 

このままだと、彼は、孤立してしまう。

 

B君は、苦しんでいる人を見ると、放っておけないので、

 

思い切って、F君に話しかけました。

 

 

あの… 好きな映画ってある?

 

 

もともとB君は、社交的じゃないので、あたりさわりのない会話ができない。

 

自分の好きな話題しか、出てこないのです。

 

F君は、アニメが好きらしく、B君は、一生懸命、話をしました。

 

でも、変な沈黙ができちゃうんですね。

 

 

A君は、そんな2人のぎこちない様子を見て、近づいて来ました。

 

おいおい、お前ら、何話してんだよ。

 

あ、それ、俺知ってる。ゲームが原作のやつだよな。

 

 

F君は、A君に、心を開きました。

 

A君は、広く浅く、たくさんの知識を持っていたのです。

 

F君は、A君の後をついて歩くようになり、A君もまた、それを喜んでいるようでした。

 

 

 

ところが…

 

 

F君は、重大な秘密を抱えていたのです。

 

それは、あっさりと、明るみになりました。

 

F君は、前にいた学校で、いじめられていたのです。

 

でも、それをA君に話したら、何だか、気まずくなってしまって…ああ。

 

 

A君は、F君と付き合うのが、面倒くさくなりました。

 

F君は、再びB君と話すようになり、A君は、次第に遠ざかって行きました。

 

 

 

B君は、何気に、気づいていました。

 

でも、それは、彼の尊厳に関わることなので、胸にしまっておきました。

 

 

しかし、ある日の放課後…

 

 

担任のG先生が、女子トイレから出てくるところを、F君が、目撃したのです。

 

G先生は、40代後半の、妻子持ちの男性教諭。

 

小さなバッグから、カメラみたいなものがチラリと見えました。

 

 

F君は、固く固く、目をつぶりました。

 

僕は…僕は、何も見ていません!

 

G先生は、黙って、F君の頭を撫でました。

 

 

 

 

B君が、教室で片づけをすませて帰ろうとすると、

 

青ざめたF君が、駆け込むように入って来て、B君の前でうずくまりました。

 

 

…どうした?

 

…いや、何でもない…はあはあ。

 

 

…そうか、それならまあ…ってよくねえだろ!大丈夫かよ、おい!

 

 

F君は、倒れました。

 

明らかに過呼吸でした。

 

 

救急車に乗る時、F君は、

 

ごめんね、僕は、本当は…

 

…いいから。大丈夫だから。一緒にいるから。

 

…うん…うん。

 

ずっと、ずっと、ずっと、

 

F君は、B君の手を握り続けました。

 

 

 

 

両親は、なかなか来ません。

 

F君とB君は、ずっと、手を握り合ったままでした。

 

 

主治医らしき女医さんが、B君に言いました。

 

…ありがとう。彼を助けてくれて。

 

 

B君は、瞬時に、何が起こったかを悟っていました。

 

 

 

 

翌日、G先生が、逮捕されました。

 

保護者が押し寄せ、学校は騒然。

 

 

F君は、「B君としか話さない」と言ったそうです。

 

B君は、チキンハートなので、A君と一緒に、病院に行きました。

 

A君は、しょうがねえなあ、と言いながらも、何だか嬉しそう。

 

やっぱりこいつは、俺がいなきゃダメなんだ、と。

 

 

F君は、B君以外とは話さないというので、

 

病室には、B君ひとりで入りました。

 

 

F君の話は、B君が思った通りでした。

 

警察やら、教育委員会やら、PTA会長やら、

 

色んな人が色んなことを聞いてきましたが、

 

B君は、頑なに口を閉ざしました。

 

 

…彼との、約束ですから。

 

 

 

F君が退院した頃には、もうすっかり、周囲からは忘れさられていました。

 

病院から出て来たF君は、待っていたB君のもとに行きました。

 

2人は、しっかりと、シェイクハンド。

 

 

実は、君に紹介したい人がいるんだ。

 

そう言って、B君の背後から現れたのは、Eさんでした。

 

彼女と、F君には、共通点があったのです。

 

 

トランスジェンダー。

 

 

Eさんには、“彼女”がいます。

 

F君には、“彼氏”がいないので、孤独な秘密をひとりで抱えていたのです。

 

 

B君は、2人の会話を、時々微調整しながら、聞いていました。

 

…うん、大丈夫だ。

 

頃合いを見て、後は2人に任せて、B君はその場を去りました。

 

F君の母親の手製のクッキーを、しぶしぶ受け取って。

 

 

G先生は、面倒くさい容疑で、再逮捕されたようです。

 

ロリで、ショタで、盗撮で、下着ドロで、児童買春なんとか…で。

 

 

F君は、最初から、彼の餌食にされていたのです。

 

騒ぎが起きて、色んな人が、F君に群がって、大変そうだったので、

 

B君は、Eさんに、彼のボディガードを頼んだのです。

 

気の強いEさんなら大丈夫だし、自分の恋人のためにもなるから。

 

 

 

C君とDさんは、会話が枯渇したらしく、

 

また、B君のもとに、何気に近寄って来ました。

 

映画と音楽にも、共通点はいっぱいあるし、

 

彼らに有益な情報を、Bくんなら与えられるから。

 

 

ただ、B君は、そんなに器用じゃないので、面倒くさくなりました。

 

 

そこで、A君の出番です。

 

彼に、マネージャーみたいな立場になってもらって、

 

彼らを、牽制してもらったのです。

 

 

 

B君は、孤独を愛する男。

 

ひとりが寂しいと思うこともあるけど、基本、平気。

 

 

A君は、また誰か、気になる女の子ができたのか、

 

やたら積極的に、B君をダシにして、色んな人と話しています。

 

 

B君は、面倒くさいことはA君に任せて、自分の好きなことをしようと思いました。

 

 

 

A君の社交術は素晴らしく、いつの間にか、EさんとF君も、仲間に加わっていました。

 

今度、みんなで映画に行こうという話が、いつの間にか出来上がっていて、

 

作品を選ぶ責任者が、B君にされちゃっていました。

 

 

…おいおい、何だよそれ。ああ、面倒くさいなあ…

 

…あはは、始まったぞ。Bのボヤキが。

 

 

みんな、好き勝手な好みを言います。

 

B君は、頭を抱えて、ため息をひとつ。

 

 

 

 

自分の役割って、一体何だろう。

 

そんなことを考えながら、

 

B君は、今日も、映画雑誌をめくるのでした。 (END)