メモリアル傑作選「フランダースの犬」(ネタバレあり) | 映画熱

メモリアル傑作選「フランダースの犬」(ネタバレあり)

ルーベンスといえば、「フランダースの犬」です。

今夜は、最終巻である13巻目を、晩酌をしながら見ています。

これ、何度見てもいいんですよね~


これほど、悪役がはっきりしている作品も珍しいのですが、
それぞれに、人間らしい弱さがあって、泣けてしまうのです(涙)


俺的には、この作品の主人公は、犬だと思っています。
何て言ったって、タイトルですから(笑)

パトラッシュは、死に掛けたところを、おじいさんに助けてもらいました。
その日から、忠実な僕として、主人に仕えていきます。

荷車を引き、アントワープの街まで、ミルクを売りに行きます。

しかし、おじいさんは、亡くなってしまいました。
健気なネロ少年とともに、荷車を運ぶパトラッシュ。

しかし、ネロは、風車小屋に放火した疑いをかけられ、村人から拒絶されます。
ミルクを運ぶ仕事がなくなり、生活が逼迫してしまうネロ…


そんな時に、絵のコンクールが開催されました。

優勝すれば、200フランという大金がもらえます。
それが実現すれば、借金も返せて、絵の勉強もできる…

ネロは、必死に絵を描きました。
その絵は、おじいさんとパトラッシュを描いた、渾身の作品でした。

しかし、ネロの作品は、落選してしまいます…


失意のネロには、友達や恋人の言葉も届きません。

仕事を世話してくれるおじさんもいたのに、ネロは…


パトラッシュだけは、ネロの気持ちがわかりました。

おじいさんに対しての想いが、ネロに重なりました。

自分は、ネロのもとにいたい。

パトラッシュは、本能で動いていました。



ネロには、アロアという恋人がいました。

村一番の大金持ちの、コゼツ旦那のひとり娘。

父親は、ネロが嫌いでした。

自分は、子供の頃から必死に働いて、一代で財を築いた。
だから、絵なんてわけのわからないものに夢中になっているネロが疎ましかった。

今で言えば、「自称ミュージシャンの男」みたいなもんでしょうか。


ネロが落選して喜んでいるのは、コゼツ旦那だけではありません。

彼の使用人、ハンスも同じでした。

彼は、金で雇われている男。旦那の命令は絶対です。
旦那の機嫌を損なうことは、全て悪だと考えています。

アロアお嬢様がネロと親しくしているのを見て、旦那以上に面白くありません。

そんな時に、風車小屋が火事になったのです。


その夜は、ネロは誘いを断って、コンクールに出す絵を描いていました。

しかし、それを証明する人はいなくて、ハンスの噂は、あっという間に広がる…

村人は、ネロを犯人と決めつけ、集団でいじめをしてしまう。

その結果、ネロは失業してしまったのです。


ネロの周りには、優しい人たちがいました。

仕事を世話してくれる人もいました。

しかし、ネロの気持ちを正確に理解してくれる人は、皆無だったのです。

それは、仕方のないことなんです…


クリスマスの夜に、ネロはついに家賃が払えなくなって、追い出されます。

お腹を空かせたネロとパトラッシュは、さまよい歩きます。


そんな時に、大変なことが起こりました。

コゼツ旦那が、大金を落としてしまうのです。

それは、2000フランという、超大金。

大慌てで探す旦那とハンスでしたが、雪が深くてなかなか見つかりません。


そのお金を見つけたのは、パトラッシュでした。


ネロは、お金に執着がありません。
自身の不幸を呪ってはいなかったことが、ここでわかります。

お金の袋にコゼツ旦那の名前を見つけて、ネロはお金を届けます。

喜ぶアロアとお母さんに、ネロは、弱ったパトラッシュを託します。

再び、外に出るネロ…

暖炉の前で、死んだように横たわるパトラッシュ。


やがて、旦那とハンスが、疲れた顔で帰って来ます。

「ああ、わしはもう、おしまいだ…」
破産を覚悟する旦那の前に、お金の袋が置かれます。

「これは…わしの金だ。いったいどうして?」

アロアとお母さんは、ネロが届けてくれたことを伝えます。

「パパの嫌いな…ネロが届けてくれたのよ!ネロは悪いことなんてしていないわ!」


旦那は、自分の非礼を詫びました。
そして、ネロを探し出して謝りたい、と言いました。

時を同じくして、風車小屋の火事の原因が判明します。
油もささず、掃除もしないために、摩擦熱がごみに燃え移った…とのこと。

ハンスは激しく凶弾されました。彼は、怯えて平謝りでした。
旦那はハンスを責める一方で、自分こそが一番悪いのだと反省しました。

アロアは、もうネロに意地悪しないでね、と父親に約束させます。



その時、パトラッシュが目覚めます。

起きた瞬間、ネロがいないことに気づきます。

目の前の温かいスープに目もくれず、パトラッシュは外に飛び出しました。


何てこったい…

ネロもパトラッシュも、ほんの一口、食事をすればよかったのに…

小学生だった俺には、理解できませんでした。

でも、今は、少しだけわかるような気がします。


必死で探す人々とは裏腹に、死のカウントダウンが始まります。

感覚がなくなり、靴が脱げても気がつかないネロ。

ネロの手袋を見つけて、必死に追いかけるパトラッシュ。


「自分は、ご主人に先立たれてしまった哀れな犬です。
 だから、せめて、ネロのそばにいさせて下さい」
(これは、俺が想像した、パトラッシュの心です)


パトラッシュが匂いを追いかけて行くと、教会にネロが倒れていました。

ネロは、運よくルーベンスの絵を見ることができたのです。

嬉しそうにパトラッシュをなでるネロ。

クウン…と鳴くパトラッシュ。


ネロは、幸せでした。

パトラッシュも、幸せでした。


これは、悲しい物語じゃないんです。

俺的には、ハッピーエンドなのです。

誰が何と言おうと、美しいエンディングなのです。


ルーベンスの魂を、最も受け継いだ少年の、慈愛に満ちた物語。

俺は、この作品が、大好きです。


優しさを伝えることを、ためらうな。

人を愛することを、ためらうな。

伝えたいことを、ためらうな。

気づいた時には、もう遅いのだから。



俺の涙の原点は、この作品です。

命短し、恋せよ少年。

命短し、尽くせよわんこ。

寿命の違う者同士が添い遂げられるのは、奇跡である。


愛する者に、気持ちを伝えることを、ためらうな。

俺は、今でもそう思います。



ルーベンスの描くキリストは、ご本人もさることながら、
その周囲の人たちの表情が素晴らしい。

それは、彼が、いかに愛されていた人であるかがわかるようである。


いなくなってから、嘆くことは、誰でもできる。

だから、その人が生きているうちに、愛を伝えて欲しいと思うんです。


そうしたら、世の中はもっと、風通しがよくなるから。


俺は、フランダースの豚を探して、人生を旅しています(笑)