U-NOTE 3 「襲い掛かる不安の影」 | 映画熱

U-NOTE 3 「襲い掛かる不安の影」

本来ブログというものは、現在の状況をそのまま報告すべきなんでしょうが、それをストレートに書いてしまうと、とてつもなく暗い記事になってしまいそう…。しばらくは、記憶をたどりながら、ある程度今の心境も整理した上で、記録していくスタイルでいこうと思います。



病状は、まだ何とも言えません。いくらか落ち着いたような気もしますが、突然おかしくなってしまう衝動にかられることも時たまあるので、油断はできません。


ブログは、気分のいい時に少しずつ書いています。書くという行為自体が、自分の治療にとっていいと思うから。映画も、無理のない範囲で見ています。できるだけ精神的な栄養を取りたいから。


とにかく、基本的には気が重い状態。徐々に沈んでいく時と、急激に落ちていく時があるのが恐い。俺が壊れているのか、悪霊が暴れているのかはわかりませんが、自分が変になっているのはわかります。そういう冷静な自分が、どこかでクールに自分を見ている気がするのです。



まあ、もともと変な人間ですから、いまさら何だよという感じもしますが、社会人としての日常生活に支障をきたすのは、やっぱり問題でしょう。ここは辛抱して、しばらく療養生活をしようかと。罪悪感はありますが、できないものはしょうがない。家族や会社には申し訳ないけど、あきらめてもらうしかない。ダメな人間だと思う人には、そう思ってもらうしかない。




さて、“怪しい医者”に処方された薬は、土日は恐くて飲めませんでした。不眠や動悸などの症状は相変わらずでしたが、あの物凄い苦しみに比べれば、まだ耐えられるレベル。月曜日には、今度こそマトモな先生に診てもらえることになっているから、きっと大丈夫…そう思って…でも、また同じだったらどうしよう?クスリ漬けにされて、強制入院なんかさせられたらどうしよう?


悶々としながら、12月13日の朝を迎えました。朝イチで、妻が会社に電話。『…今日は、午前中に医者に行って、そのまま休ませます!』 いいのかなあ、なんて思いながらも、少しホッとする俺。


前にも話したかもしれませんが、妻は車の免許を持っていません。だから、運転は俺の担当。今日は、娘の小学校の行事があることもあって、妻は仕事を休みました。2人で一緒に、TG医院に向かう。


AM11:00に予約していたので、10:45くらいに到着。駐車場で車輪止めにぶつかるわ、入り口の自動ドアが開かないわで、少々パニック。うう、来るのを拒まれているような…ってそれは考え過ぎ。



前回の悪名高いTN医院とは違い、普通にスリッパが置いてあった。待合室も普通。絵本や児童書やマンガ雑誌が置いてある。雰囲気は、悪くなかった。年配の看護士が俺の名前を呼ぶ。いつもなら、はあいと元気よく返事するところだけど、今はムリ。静かに、診察室に向かう俺。妻も、一緒に付いて中に入る。


TN先生は、八百屋のおっちゃんという感じだったけど、TG先生は、貫禄あるおじいさんという感じだった。大きな四角い眼鏡をかけて、頬の肉がいい感じで垂れ下がっていて、声も紳士的。パッと見、マッドサイエンティストに見えなくもない。直感で思った。このジイさんはプロだ。



話をするというのは、相手がどれだけ聞く姿勢を持っているかで、まるで変わる。つらい話、苦しい話をする時はなおさらである。言葉は、生き物である。人を生かす言葉、人を殺す言葉がある。俺は、勇気を振り絞って、自分の状態をできるだけ簡潔に、正直に告白した。


時間はどれくらいだったろう。30分か、40分か。少なくとも、3分や5分じゃない。先生は、じっくりと、俺の言葉を妨げないように、1つ1つ辛抱強く聞いてくれたように思う。何しろ、意識がボヤ~っとしている状態だったので、何をどう話したのか、俺も具体的に覚えていない。ただ、必死で訴えたことだけ記憶している。後で妻に聞いたら、ちゃんと自分で説明できていたよ、と言ってた。そうか、よくがんばったなあ、俺。



前回かかった医者のことも話した。点滴と薬で気持ち悪くなってしまったことも話した。TG先生は、すぐに点滴など打たなかった。そして、刺激の少ない薬を1週間分処方してくれた。点滴を打たれるかもしれない恐怖から開放され、俺の腕の震えは止まった。


『…初診の時は予約制だけど、次回からはいつ来ても大丈夫ですよ。気分が悪くなったらいつでもいらして下さい。』 何だか、言い方が優しい。 『…ちゃんと通って来なきゃダメだよ!』といい放ったTN医院のおっちゃんとはエラい違いである。“人を診る”ということは、どういうことなのかということを、俺は考えた。



新たに診断書を書いてもらって、薬をもらって会計をしたら、こっちの方が安かった(笑)。再び車に乗って、コンビニまで走る。ホットの缶コーヒーを飲んだら、やっと体の力が抜けた。こういう時って、口の中がガバガバに渇くもんだから。


家に帰って、軽めの昼食。会社と実家には、妻に電話してもらった。午後から妻は学校に行き、俺は薬を飲んで少し眠った。これでとりあえず、今日は大丈夫。だけど…。



1時間くらいウトウトして、すぐに目覚める。1人になると、またしても激しい思考が始まる。会社の状況は?今日納品だったアレはどうなった?納期が迫ったあの仕事は、今日起動しないと間に合わない…。


何度も、会社に電話しなきゃ、という衝動にかられた。しかし、今の俺に何ができる?行ったところで、何の役にも立たない。白い目で見られ、疎んじられるのは必死。つい昨日までの、バリバリ働く俺は、もう死んだのだ。今ここに転がっている俺は、生ける屍でしかない…。


会社というのは営利団体だから、利益を生まない社員は直ちに捨てられる。俺は、そういう世の中のしくみをイヤというほど味わってきた。だから、自分の状況を考えれば考えるほど、何とかしなきゃと思えば思うほど、蟻地獄のような状態になっていく。実際振り返ると、ここ半年はそんなことを考えながら仕事してたように思う。



俺は、いつからおかしくなったんだろう?突然?最近?それとも、生まれた時から?俺は、生まれない方がよかった?俺がみんなを不幸にさせてしまった?俺がいない方が、みんな幸せになれた?


…異常ですね。わかっているけど、そんなことを考えてしまうんです。それが、鬱病なんでしょうか。小さなストレスを、より大きく感じてしまう。ケロイドのようになった皮膚を掻きむしられるような、鋭い激痛が、弱った心に襲い掛かる。見えない不安が、形のない恐怖が、ジワジワと俺を追い詰めていく…。



悪夢の映画を3本立てで見た気分になり、ヘトヘトになった頃、妻が帰ってきた。やがて、娘も帰ってきた。彼女たちの声を聞いて、俺はかろうじて、正気を取り戻した。…俺、まだ生きている。生きていていいんだよね。




人の運命なんて、どこでどうなるかわからない。人間の心なんて、案外モロいものである。ある条件さえ揃えば、人格はあっという間に崩壊する。その恐ろしさが人一倍わかっているからこそ、今回の自分の状態が恐い。これは、本音です。だから…ああ、もう考えたくない。


とにかく、TG先生を信じよう。今は、それしかない。もらった薬を飲もう。今は、ぐっすり眠りたい。眠った後でまたゆっくり考えよう…。




会社には、妻が話をつけてくれた。とりあえず、1ヶ月の休職。 どうなるんだろう、俺…? (つづく)