最近読んだ本 | 映画熱

最近読んだ本

軽い本にも飽きてきたので、ちょっとグレードの高い本を2冊読みました。思考力と感性がサビないように、頭と心の手入れをしなきゃね。




「思考の整理学」 (外山滋比古著、ちくま文庫)


これは、1983年に刊行されて、86年に文庫化。2009年5月の時点ですでに第51刷発行になっているので、ウルトラベストセラーな1冊。シンプルなタイトルに惹かれて、手に取ってみました。


この本を執筆したおっちゃんは、なるほど頭がいい。難しい言葉をあまり使わずに表現したエッセイ風の本ですが、一冊通して読むと、しっかりした理論体系になっている。これは、良書であると思います。


俺自身も、子供の頃からモノを考えることが好きで、思考の冒険を限りなく続けてきました。学がないので知識には乏しいけど、全く違うものを関連づけて考えるのはよくやりました。


この本では、グライダーと飛行機の違いに例えて、自ら飛ぶ力を有するようになるためには、何が必要であるかを問います。何でも簡単に答えが出るほど、世の中は単純じゃない。“しばらく寝かせておく” という著者の表現は、とても優れていると思いました。自分が無意識にやってきたことにも、意味があったんだと思うと、ちょっとうれしくなりましたね。


本を読む時の読み方には、3種類あるそうです。だから、映画を見る時もそうだと思う。感じ方というのは、人によって違うものだから、見方によって解釈がいろいろあっていい。模範解答なんていうのは、学校の世界だけなんだから。俺は、それで落ちこぼれちゃったもんで。


映画ブログというのは、紹介記事を書けばいいというものではないと思う。わかりやすくて読みやすい記事を望む人は、少なくともここには来ないでしょう。俺の文章は、読むと疲れる。そしてやたらと長い。まるで行のようですが、そういう人が毎日200~300人くらい来ています。根性あるなあ、ウチの読者は。


考えをまとめて文章にする、という作業は、簡単なようでなかなか難しい。俺は平均して、1つの記事を2日くらいかけて書くくらいのペースでやっています。短時間でコンパクトにまとめたいところですが、どうしてもこのくらいになってしまう。きっと、これもまた俺のスタイルなのかもしれない。


ブログをやっていると、思考が混乱することはよくある。同じ言葉を重複したり、ポイントがズレたり。まあ、素人の文章なんだからそんなに気にしなくてもいいんだろうけど、自分が書く以上は、納得のいく形で出したいって思うもので。だから、この本に書いてあることは、とても力になりました。


考えがまとまらない時の一工夫とか、参考文献や資料の読み方、断片的な思考のまとめ方など、日常のテクニックも豊富に登場。カクテルになぞった思考の話は、大人のトークですね。シブいじゃん、オヤジ。


ただ、外山センセイはお酒があまり好きではないらしく、飲酒に対しては否定的でした。酔った時の思考というのは、それはそれで面白いんだけどなあ。飲み会で盛り上がったり、飲み屋で語っている時などは、普段じゃ絶対思いつかないような鋭い思考力が発揮するもんです。やっぱり、人間同士の会話の化学作用が、一番刺激的なのかもかもしれないですね。


考えるということは、覚えたことをより深く極めていって、自分の生きる力に変えていく作業でもある。映画が何故面白かったのか、何故つまらなかったのか、何故感動できたのか、自分にとってどんな位置づけになるのか、どんな栄養になるのか。いつも何気なく考えていたことは、脳のメカニズムのなせる業だったのか…すげえ。


思考型のブロガーを目指す人には、この本をオススメしたいと思います。だいぶ前に紹介した斉藤センセイの 「コメント力」 と同様、執筆する時の力になるでしょう。


映画 「たそがれ清兵衛」 で、幼い娘が 『…どうして勉強しないといけないの?』 と質問する場面があります。清兵衛は静かに答えます。『…勉強すると、考える力がつく。考える力が、生きる力になるんだ。』


考え方は、生き方そのもの。人の言われた通りに行動してばかりいると、何かあった時に人のせいにする人間になってしまう。俺は、それを嫌ってわざと1人になって考えました。その8年後に結婚して家庭を持ったので生活はガラリと変わりましたが、今でも1人の時間を大切にしています


この本は、今の自分にとって、“地に足をつけて考えよ” というメッセージだったんじゃないかって思います。4年もブログ書いてても、俺はまだまだ青いです。根無し草の、素浪人侍。風の吹くまま、わがまま気まま。


少なくとも、“忘れるのが恐いから書く” という考え方は改めようかと思います。“大切なことは書かないでおく” というセンセイの言葉が心に響きました。…頭がいいオヤジって、カッコいいなあ!




「フェルメール全点踏破の旅」 (朽木ゆり子著、集英社新書ヴィジュアル版)


フェルメールの名画全37点を、オールカラーで収録した豪華本。値段は1000円。これは飛びつきました。宝物にしたいので、絶対手放さないつもりです。


ヨハネス・フェルメールは、17世紀のオランダ出身の画家。映画 「真珠の耳飾りの少女」 では、スカーレット・ヨハンソン嬢がモデルになってましたが、ちょっと違うだろってツッコミたくなったのは、俺だけではあるまい。


彼の絵の独創性は、俺の貧しい文筆では表現しきれないので、詳しく知りたい人は、美術に詳しいブログを探しましょう。ここではあくまでも俺の独り言のレベルということで。


フェルメールの絵には、気品と美しさがある。素材はあくまでも日常風景なんですが、その切り取ったひとコマにちゃんとドラマがある。何というか、空気が清浄な感じがするんですね。光と影の使い方から、人物表情、佇まいが素晴らしい。静かな迫力と、人のぬくもりがビンビンに伝わってきます。


例えば、ルノワールという画家がいます。彼の描く女性は、みんな優しそうで健康的なイメージ。俺が思うに、ルノワールという男は、人を喜ばせることが上手だったんじゃないかって思うんです。女性なら、誰でも自分をキレイに描いて欲しいって思うもの。だから、完成した絵を見て、依頼人の女性は、絵の通りの笑顔になった。奥様、これが貴女の本当のお姿です、なんてね。だから、彼の絵には人を幸せにするオーラがある。


では、ゴヤはどうでしょう。映画 「宮廷画家ゴヤは見た」 の記事でも書きましたが、正直に描き過ぎて人を怒らせるキャラと言えるでしょう。お金をもらって描く以上、依頼人の望みを最大限にかなえるのがプロというものですが、彼の、絵に対する作品的なこだわりが、裏目に出てしまった。ブラックなシャレが通じなかったんですね。


で、フェルメールですが、彼の絵には、ルノワールのような派手さはないけど、静かな美しさがある。余計なものを削り取ったことによって、重要なポイントがかえって強調されている。ゴヤのような毒々しい迫力なないけど、表情の奥にゾッとするような凄みがある。絵を見る時間が長くなればなるほど、それはよりいっそう浮かび上がって、見る者の心に沁み込んでくるのだ。


「窓辺で手紙を読む女」 は、息づかいが聞こえてきそうな雰囲気で、緊張感のある横顔が美しい。「牛乳を注ぐ女」 は、匂いと音がしてきそうな感じがして、食欲をそそる作品。「手紙を書く女」 は、おでこの光と手がかわいくて、何だか話しかけたくなる。


「真珠の耳飾りの少女」 は、ロリロリした瞳と、半開きの唇がエロくてなかなかよろしい。健全なお色気です。だから、ヨハンソンはちょっとねえ…。


手の魅力としては、「レースを編む女」 の仕事をする手、「天秤を持つ女」 の繊細な手、「女と召使」 の奥様のあごに添えた手がそそります。「ギターを弾く女」 も、手だけは美しい。フェルメールって、手フェチだったりして。


映画もそうだけど、絵画にも恐ろしいくらい “好み” というものがあります。画風、タッチ、色づかいやら描写やら、細かく見ればキリがありません。


何故フェルメールが好きかと聞かれれば、エロいからです。露骨なエロではなく、健全なエロです。宗教がかっていないところもいい。あくまでも日常生活の中において、美しい場面は無数に存在するのだという、彼の主張が込められているようで、見ていると気持ちがいいんです。


シンプルでいて、今にも動き出しそうな生命力と躍動感。彼の生み出す作品は、どれも生きている。時が経ても、それは決して色あせることはないのだ。それこそが、本物の芸術といえるのではないでしょうか。


この本は、買った日に夜中までかかってずっと読みふけっていました。時間をしばし忘れ、美しい作品に没頭するのも悪くない。この本もまた、俺の心に栄養を与えてくれました。


フェルメールファンには、必携の1冊。彼と一緒に、美しい心の旅をしてみませんか。