2007年映画熱ランキング その2 邦画編 | 映画熱

2007年映画熱ランキング その2 邦画編

今年も、洋画よりも邦画の方が、圧倒的にいい作品が多い年でした。激しいデッドヒートの末、上位に食い込んだのはどの映画か?厳選した珠玉の10本をご紹介します。



【邦画編】

1.神童 (成海璃子主演)


作品から受けるパワーを、一番感じたのがこの映画。ピアノ少女は、決して裕福なお嬢様じゃない。人に対して不器用な彼女にとって、ピアノは自分を表現できる唯一の手段。ガサツなようで繊細な心を、成海ちゃんがのびのびと演じています。彼女のあっけらかんとした感じが、とても面白かった。


共演の松山ケンイチも、そんな彼女を脇でしっかり支えている。恋人という感じではないけど、ともにピアノを、音楽を愛する者として、一生懸命に生きる心のパートナー。そういう異性って、何だか素敵な関係だと思います。彼もまた、彼女から力を受けていく。貫地谷しほりが出ているのもうれしい。


ピアノの心地よい旋律とともに、心が流れていく気持ちのよい作品。人生の光と影を織り交ぜながら、静かに染み込んでいくような映画です。原作マンガと同様、今年のベストワンです。



2.キャプテン (室賀厚監督)


ちばあきお原作の名作マンガが、実写映画化。中学生の野球部モノという地味な素材だけに、細々と公開されて終わってしまったのが惜しい。内容は、ものすごいスポ根映画。


オーディションの基準は、“中学生に見えて、野球ができること”。イケメンなど1人も出てこない。ただ、がんばる男のみ。CGや合成など一切なし。全て本物のアクション。普通の少年たちが、弱い心と懸命に戦い、仲間を信頼し合い、信じられない力を発揮していく。


この映画、日本人の心に宿る何かを刺激する力があります。くじけそうな時、彼らの姿を思い出して下さい。人を引っ張っていく魅力とは何か。“がんばる” ということの本当の本当の意味を、この映画で学んで下さい。そう、がんばるって、気持ちのいいことなんです。



3.夕凪の街 桜の国 (田中麗奈主演)


原爆を投下された広島で、生き抜く人たちの物語。今までそういう映画はたくさんありましたが、これほど優しい視点で作られた作品も珍しい。同時期に見た 「ヒロシマナガサキ」 と同様、学校で見せた方がいいくらい優れた映画です。


「夕凪の街」 が前半、「桜の国」 が後半の2部構成になっています。前半の主役は麻生久美子。彼女の痛々しく力強い演技が、心に突き刺さってたまりませんでした。今まで演じた中でも、渾身の役柄と言えるでしょう。後半の主役は田中麗奈。彼女は明るいキャラで、観客を和ませてくれます。2人のバランスがとてもよくて、いやみのない、筋の通った仕上がりになっています。


子供には、自分と同じ苦しみを味わせたくない。それは、万人の親が望むことでしょう。だからこそ、親子で理解し合うことって大事なんだと思います。この映画を見た後は、子供の寝顔をじっくり見ましょう。



4.赤い文化住宅の初子 (タナダユキ監督)


ビンボー、ビンボー、ああ、貧乏!貧しい美少女が健気に暮らしています。複雑な家庭事情により、兄と2人暮らし。肉体労働で稼いだわずかな金を、デリヘルに使ってしまう兄。妹は、勉強したくても、参考書を買うお金がありません。ラーメン屋でバイトする女子中学生。あいそをふりまくこともできず、怒られてばっかり…。


ものすごい不幸。もう笑うしかありません。というか、ビンボーな生活って、誰もが1度は経験した方がいい。彼女は懸命にがんばります。でも、報われない。そして…。


「ちりとてちん」 みたいなやさしい人は出てきません。みんな、冷たい人ばかり。しかし、みんな間接的に彼女を助けていることにご注目。世の中の現実を学ぶには、これくらいのリアルさがあっていいでしょう。俺はこの作品を、「嫌われ松子の一生」 の妹分にしたい。不幸な女の子たち、ガンバレ!



5.包帯クラブ (石原さとみ主演)


不幸な映画の後は、癒しの映画を紹介しましょう。このタイトルからして、変態クラブの話かと思いましたが、いたってまじめな映画でした。人間誰しも、心に傷を持っているもの。そのつらい思い出の場所に、包帯を巻こうという発想が面白い。映画に使われている音楽もまた、癒し系で心地いい。


人は、人を傷つけずに生きていくことはできない。その人の存在自体が、常に誰かを傷つけているかもしれない。俺の書く文章で傷つく人もきっといるでしょう。だけど、書かずにいられない。生きなくてはならない。しょうがないんです。だから、ほんのちょっと、誰かにやさしくすればいい。人間って、誰かの世話にならなきゃいけないようになっているもんだから。


俺は、こいつらのしていること、面白いと思います。ただねえ、お前ら、ちゃんと後始末しろよなあ。ちらかしたまま帰るんじゃねえよ。やりっぱなしは、ダメ!



6.殯の森 (河瀬直美監督)


なるほど、と思える映画でした。「赤い文化住宅の初子」 もそうでしたが、女性が演出すると、ドロドロしたものがしなやかになる。男から見るとちょっとマイルドな感じがするけど、女性の人間性を考えれば納得です。同じものを見ても、とらえ方に差が生じる意味も、この映画を見るとよくわかる。


世話をする。世話をされる。して欲しくないけどされる。したくないけどする。難しいですねえ、人間って。それに性別が加われば、よりいっそう複雑になる。だから、全てが勉強。人ごとじゃない。


この映画、年代や性別によって、様々な反応があるでしょう。この映画を振り返って今思うことは、いくつになっても男はロマンを追いかけるんだなあってこと。男は、女に迷惑をかけずに生きていけないのかも。どうせなら、かわいくボケたいなあ。



7.暗いところで待ち合わせ (田中麗奈主演)


俺が、乙一作品に出会うきっかけになった映画。そして、田中麗奈の素晴らしい演技力を確認できた映画でもあります。事故により視力を失い、唯一の家族である父も亡くなり、一人ぼっちになってしまった若い女。閉じこもって生活する彼女の家に、謎の侵入者が…。


目に見えるものは、時として人を惑わす。見えないからこそ見えるものがある。リアルに考えるとおかしい場面もいっぱいありますが、余計な情報をそぎ落として考えれば、実に面白い素材と言えるでしょう。


人の心って、目に見えない。何を持って心を感じ取るか。それは、心そのもので感じる世界。静かな画面の向こうを見つめながら、自分の感性でとらえ、考えてみて下さい。いい映画です。



8.しゃべれどもしゃべれども (平山秀幸監督)


しゃべるのが苦手な人は多いでしょう。俺も得意ではありません。どちらかといえば、書く方が好きです。うまくないけど。この映画は、“話し方教室” で落語を学ぶ人たちの物語。


この映画、不器用な人がいっぱい出てきます。教える先生も不器用。気難しいおっさん、生意気なガキ、暗い女…。でも、みんな何か同じものを持っている。自分の欠点を克服したいと思っている。だから、先生もがんばる。


話のうまい人ほど、言葉に嘘があったりするもの。本当に伝えたいことって、シンプルなことなんです。話をする。話を聞く。人の話を伝える。それはやっぱり、人の気持ちがわかるようになるための訓練なんだと思います。言いたいことが伝わった時って、うれしいもんね。



9.長い散歩 (奥田瑛二監督)


正しいことをするのって難しい。だから、覚悟がいる。自分の全てを投げ出してまでやるからには、本気でやる。それができるのは、押さえきれない衝動があるから。


虐待されている少女を救おうと、1人のジイさんが立ち上がる。この子のためにできることは何か。悩みながら決断する。行動に出る。しかし…。


この映画、見ていてとても切なかった。何とかしたいけど、どうにもならないことって多い。だけど、何かしなくちゃ。一体誰がこのじジイさんを責められようか。だから、散歩はまだ続いています。彼の心の中でも、観客の心の中でも…。



10.図鑑にのってない虫 (三木聡監督)


最後は、能天気なバカ映画を紹介しましょう。何も考えなくていいです。ひたすらバカです。バカがいっぱい集まって、バカな物語が展開します。底抜けにバカです。そして、バカみたいに笑えます。


人間は、バカになるべき時がある。バカにならなきゃやってられない時がある。バカだからこそできる偉業もある。いざとなったらバカになれるって、ある意味カッコいいじゃん。


そういうわけなので、このバカ映画、オススメです。暗い世相を吹き飛ばすバカになりましょう。このくらいバカになれれば何でもできる。そして、バカみたいに来年もがんばりましょう!…さあ、バカって何回言ったかな? …あ、数えなくていいって! …もう、バカだなあ。