わたしの恐怖体験 (15) 髪の長い女
これは、もう10年以上前にスナック “J” のカウンターで、年下の飲み友達H君から聞いた、生々しい話です。最近になって急に思い出したので、ついでに紹介しておくことにします。
ある夜、農道(いわゆる田舎道)を、深夜に車で走っていた時のこと。走行中に突然車の調子が悪くなり、止まってしまった。しかも、エンジンがかからない。
困った、と思った瞬間、後ろから人が近づいてくるのがわかった。ゆっくりと…。
それは、生きている人間じゃなかった、とH君は思ったそうな。彼はこれ以外にも、いろんなモノを見ているらしく、どうやら霊感があるらしい。直感的に、この世のモノじゃないと思ったそうです。
バックミラーに写る白い影。髪の長い女が、ゆっくりと近づいてくる。一歩、また一歩…。
やがて、運転席のすぐ横まで来て、じっとこちらをのぞきこんでいるのがわかる。でも、金縛りにあったように、体が動かない。視界の隅の方で、射るような視線をモロに感じたそうです。
…恐怖に凍りついたのもつかの間、“彼女” はすうっと消えたそうです。
同時に、体の自由が戻る。慌ててエンジンをかける。…快音がして、エンジンがかかる。急発進をして、H君はその場を離脱したそうです。
H君は当時まだ20歳そこそこで、美少年タイプでした。俺と違って、女にはモテる方だったから、過去にヒドい目に合わせた人もいるんでしょう。俺は言ってやりました。
『…そいつ、前にフッた女じゃないの。悪い奴め。よく思い出してみろよ。』
『…そんなワケないですよ。全然知らない女。感じでわかりますよ。』
『…そうか、じゃあ…、やっぱり幽霊かもな。』
『…やっぱり、そうですかねえ…。』
『…ということはさあ、たぶん…。』
『…え、何ですか?』
ちょっと手招きして、顔を近づけて、俺は真顔で言いました。
『…お前は、その女の好みのタイプじゃなかったんだよ。…フラレたな!』
2人は爆笑して、ナンパユーレイにカンパイして、また飲み続けたのでした。