よくある誤用6──誤用とは言い切れない例 申し訳ありません 申し訳ございません とんでもありませ | tobiの日本語ブログ それ以上は言葉の神様に訊いてください

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「誤用」とされる言葉にはいろいろなパターンがあります。なかには、誤用ではないのに誤用扱いされている可哀想な言葉もあります。もっとも、「誤用ではない」のなかには、「元々誤用ではない」ものもあれば誤用が広まったために許容されるようになったものもあります。
  
申し訳ありません/ございません
 昔、「申し訳ありません/ございません」は「誤用」という記述を何かで読んだ気がしますが、そんな曖昧な記憶では根拠を示しようがありません。
 現在でも、ネット検索すると「申し訳ない」が一語の形容詞であることを理由に、「申し訳ありません/ございません」を誤用とする記述を目にします。
 本当にそうなのでしょうか。
 たとえばWeb辞書『大辞泉』には下記のように書いてあります。
■Web辞書(『大辞泉』から) 
http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?p=申し訳ない&stype=0&dtype=0

http://kotobank.jp/word/申訳無い?dic=daijisen&oid=18193300

================================引用開始
もうしわけ‐な・い〔まうしわけ‐〕【申(し)訳無い】 
[形] 
1 言い訳のしようがない。弁解の余地がない。相手にわびるときに言う語。「世間に対し—・い気持ちで一杯だ」「不始末をしでかして—・い」 
2 相手に無理な依頼ごとをして、すまないという気持ちを表す語。「—・いが、あしたにしてもらいたい」 
[派生] もうしわけながる[動ラ五]もうしわけなげ[形動]もうしわけなさ[名] 
◆「申し訳」に「ない」の付いた複合形容詞で一語とするが、「申し訳」は名詞としても使うし、「申し訳がない」「申し訳が立たない」という言い方もある。従って丁寧に言おうとして「申し訳ありません」「申し訳ございません」と言うのを、一概に誤りとは言えないであろう。 
================================引用終了

『明鏡国語辞典』にも「丁寧形の『申し訳ありません』『申し訳ございません』が多く用いられる」と明記されているそうです。
 どうやら、「誤用」とするのは無理がありそうです。

 ちなみに、敬度の面で考えるなら、

 

ない→ありません→ございません

 

 と右に行くほど敬度が高くなります。

 ↓の「ないです」を仮に認めるなら、「ありません」と同程度ですかね。


とんでもありません/ございません
 これも諸説あるところですが、平成19年に文化庁が「敬語の指針」http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/pdf/keigo_tousin.pdfのP.47で許容してしまいました。

================引用開始

 

【解説1】「とんでもございません」(「とんでもありません」)は,相手からの褒めや賞賛

などを軽く打ち消すときの表現であり,現在では,こうした状況で使うことは問題が

ないと考えられる。

================引用終了

 

 

 そのためか、Web辞書『大辞泉』は下記のように書いています。

http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?p=とんでもない&stype=0&dtype=0

http://kotobank.jp/word/とんでもな・い?dic=daijisen&oid=13581800

================================引用開始
とんでも‐な・い 
[形]《「とでもない」の音変化》 
1 思いもかけない。意外である。「―・い人にばったり出会う」「―・い発明」 
2 もってのほかである。「―・い悪さをする」 
3 まったくそうではない。滅相もない。相手の言葉を強く否定していう。「―・い、私は無関係だ」 
◆「とんでも」に「ない」の付いた形だが、「とんでも」が単独で使われた例はなく、「とんでもない」で一語と見るのがよい。とすれば、「ない」を切り離して「ありません」「ございません」と置き換えて丁寧表現とするのは不適切で、丁寧に言うなら「とんでもないことです」「とんでもないことでございます」「とんでものうございます」と言わなければならない。しかし、最近は「とんでもありません」「とんでもございません」と言う人が多くなっている。 
平成19年(2007)2月文化審議会答申の『敬語の指針』では、相手からのほめ言葉に対して謙遜しながら軽く打ち消す表現として「とんでもございません(とんでもありません)」を使っても、現在では問題ないとしている。 
なお、「とんでもない」には「もってのほかだ」と強く否定する意味もあり、「とんでもないことでございます」を使う場合は注意が必要と『指針』は述べている。 
================================引用終了

 これも、「誤用」とするのは無理があるようです。
 ただし個人的には、「とんでもありません/ございません」には異和感があるので原則として使いません。
 おそらく……「申し訳ありません/ございません」は元々誤用ではないのでしょう。「申し訳がありません」のように「が」を入れれば、何も問題がないはずです。
「とんでもありません/ございません」のほうは、元々は誤用ですが、許容されたのでしょう。
 このあたりのことは、専門家におまかせします。
 個人的には、「元々どうであったか」にはあまり興味が湧きません(「教養」としては知っておくべきでしょうが)。「現在どのように使われているか(使うべきか)」のほうが重要な気がするからです。

とんでもないです
「とんでもありません/ございません」は誤用で、「とんでもないです」が正しい、と書いてあるとサイトを見たことがあります。
 これがまた微妙な話で、「形容詞+です」(「うれしいです」「楽しいです」など)を認めるか否か、という問題が関係します。昭和27年に文化庁が「形容詞+です」を許容してしまったため、現在の文法書や辞書は許容しているはずです。
 当方はこの形に異和感があるので、原則的に使いません。
 ただし、「形容詞+です」には異和感がない人でも、「ないです」には異和感があるのでは。これは「ありません」にするほうが自然で、「ないです、は間違い」と主張する人もいるようです。
 この形には個人的に「とんでもありません/ございません」以上に強い異和感があるので原則として使いません。

 文化庁のルールに従うなら、「とんでもありません/ございません」もOKです。「とんでもないです」も「誤用」とは言えないのかもしれません。
「〜ない」形の形容詞はほかにも多数あります。

  仕方ない/他愛ない/しようがない……etc.

 このなかには「〜ありません」「〜ございません」にしてもおかしくないものもあります。すべてを同列に扱うことに無理を感じます。
 
 詳しくは下記をご参照ください。
【「~ない」形の形容詞の迷宮】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1814.html