20年前に書いたもの26 | エッセイのコテージ「黒ひげ」日誌

エッセイのコテージ「黒ひげ」日誌

田舎暮らしの老人コピーライター「黒ひげ」が、暮らしの中で感じた“よしなしごと”を綴ったエッセイを掲載しています。

はままつ考現学26

 ランドマークの隠れた役割

 アクトタワーが工事が進み100mの高さを越えた。間もなく210mまで骨格が完成しその全体像が現わす。ただ高いだけではなくこの頂上には、衛生中継放送を受発信アンテナなど、浜松の情報インフラを大きく充実するさまざまな設備が設置されることのなっていると聞く。その地域のシンボルとなる施設をランドマークというが、アクトタワーはこのランドマークの役割ばかりではなく、情報ネットワークなどの目にみえない街の機能の充実にも寄与するのである。

 町の東北部に1本の巨大な煙突がある。化学産業がほとんどない浜松にあっては、これまでかなり目立ったランドマークの一つだった。低い家並みの中から、この煙突だけがにょっきりと抜きんでているから、クルマを運転していると良く目につく。このオバケ煙突は、高さ110mもあり、東京セロファンという会社の公害防止施設である。基部の直径は7.2m、頂上部でも2.3mもある。地下にはこの煙突を支えるために深さ4.7m、直径23.4m八角形の基礎が埋まっている。遠望するのとは違って、近くまで行くと圧倒的な存在感がある。

 この煙突の役割がちょっと変わっている。煙を出すためのものではないことだ。セロファンを作るためには、パルプを溶かして飴状にしてそれをシートにするという工程を踏むが、そのプロセスの途中で熱や臭気、パルプの残存物といった環境に影響するさまざまなものが出る。熱や臭気の基になるものはほとんど回収されるが、空気中に残った一部の物質は、この煙突を経由して大気中に放散される。この物質が大気に与える影響を確認するために定期的に大気の測定が行なわれている。この測定機の側に家庭用浄化槽があるだけで、その排出ガスに影響されてしまうという厳密な測定がなされているそうだ。

 この会社では、敷地の1/3が環境保全施設で占められているというほど徹底した管理をしている。企業は、こうした気の遠くなるような環境保全の努力をしているのだ。道端に散乱する空缶、ゴミ集積場の周囲の汚さなど、我々のちょっとした努力によってずっと改善されるはずの光景を見慣れた目には、その費用投入の大きさや粘り強い継続的な努力には驚かされる。

 そうした企業の環境への努力のシンボルが、この煙突というわけだ。街のランドマークとして我々の日々を見下ろしているこの煙突は、なかなか進まない一般市民の生活環境維持への取り組みの甘さに、きっと苦い顔をしていることだろう。