ジャポニウムとニッポニウム | Kura-Kura Pagong

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"kura-kura"はインドネシア語で亀のことを言います。
"pagong"はタガログ語(フィルピンの公用語)で、やはり亀のことを言います。

 原子番号113の新元素が日本(Japan)から名前をとって「ジャポニウム(Japonium, Jp)」と命名される可能性が高い、という報道があった。この新元素は日本の理化学研究所($)の研究チームやアメリカとロシアの共同研究チームがそれぞれ加速器を用いて合成したと報告していたのだが、化学者の国際組織である国際純正・応用化学連合(IUPAC)が両者の提出したデータを審査結果、新元素を初めて合成した者として理研を認定し、命名権を認める動きとなったものである。

 このニュースを読んでいて、ニッポニウムという幻の元素の話を思い出した。
 20世紀の初めの一時期、周期表にニッポニウム(Nipponium, Np)という元素が記載されていた。原子番号43、マンガンの下、モリブデンとルテニウムの間の位置である。これは、日本人科学者・小川正孝が、43番元素を発見した、として1908年に発表し、認められてのことだった。しかしその後、小川の成果に対して否定的な研究報告がなされるようになる。ニッポニウムが実在するのかどうか分からない中、小川は1930年に世を去る。

 大きく分けて原子には安定同位体と放射性同位体の2種類がある。宇宙が続く限り存在すると考えられるのが安定同位体だ。一方、放射線を出して他の種類の原子に変化するのが放射性同位体である。よく原発関連のニュースで「放射性セシウム」という言葉が出てくるが、これはセシウム137と呼ばれる放射性同位体である。一方、セシウムにはセシウム133という安定同位体があり、これが自然界に存在する。
 後の研究により、43番元素には安定同位体がなく、自然界には存在しない(%)ことが分かって小川の研究成果は否定された。1936年に加速器を使った実験で発見された原子が本当の43番元素だと認められ、これがテクネチウム(techetium, Tc)
と命名されて現在に至っている。

 小川の研究成果は否定されたが、彼を再評価する研究者もいる。小川が発見したという43番元素は本当は75番元素だったのではないか、と現在では言われている。75番元素とはレニウム(rhenium, Re)である。周期表での位置は43番元素の真下だ。化学的性質もテクネチウムとレニウムは似ている。
 放射化学者で東北大学名誉教授の吉原健二氏もその一人だ。以前、吉原氏の講演を聴いたことがあるのだが、
「小川正孝は侍である。」
と彼は言った。43番元素の研究成果が疑われるようになって、彼のことを悪く言う人も現れた。そういう中、彼を批判する記事を書く新聞記者もいた。だが、小川は東北帝国大学総長を務めるような人物である。その新聞社の役員は彼を強く叱責した。そのことをその役員から聞いた小川は彼をこうたしなめたそうだ。
「私は別に悪口を書かれても構わない。だが君の部下が私の記事のせいでクビになったら食べていけなくなるではないか。」
その潔さ、寛容さが侍だ、というわけだ。安倍晋三首相に聞かせたい話である。


$ STAP細胞の小保方晴子が所属していた研究機関。わかめスープやピストンリングを資金源にしている。

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テクネチウムの同位体は全て放射性同位体であり、一番寿命が長いテクネチウム98でも半減期は約400万年である。仮に地球が形成された時点でテクネチウムが地球上に存在していたとしても、現在はそのほとんど全てが崩壊して存在していない、と考えられる。一方、ウランにも安定同位体は存在しないが、一番寿命の長いウラン238の半減期が約45億年である。だからウランは地中に存在する。

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 ここに貼り付けたのは、台湾の学習参考書に掲載されていた中国語繁体字の周期表 (細説 高三選修化学系列 有機化合物、発行:建弘より転載)