歌い手の悪夢。
 
うなされそうになる、いや、実際うなされてるかも。
そんな夢。
 
 
おそらくそんな悪夢の一つが、舞台で何も唄えないってやつだと思う。
 
楽譜がない、歌詞が出てこない。
 
 
 
昨夜の夢はまさにそれで。
 
一曲唄ったら、あとなにもない。
 
 
唄える歌が、なにもない。
 
こうなったら「マイウェイ」だ、とピアニストに楽譜を探してもらう。
 
 
なんで「こうなったらマイウェイ」なのか。
夢の中でも不思議でならない。
 
 
 
そうだ、寝る前に見てたニュース番組で。
トランプ大統領主催晩さん会で踊る人たちのBGMがこれだったのだった。
シナトラだかの朗々とした唄い声のマイウェイ。
 
 
やっぱりトランプさんは「マイウェイ」だな。ふふん。
 
 
そう、小バカにしたのがタタッたらしい。
 
 
 
 
この「マイウェイ」。
もともとシャンソンで、「いつもどおり」というのが原題だ。
 
人生を振り返る歌でもなんでもない、タダの日常を歌った歌だ。
そんなさりげない粋な歌。
 
 
 
 
それがなんだか、功成り名遂げたオジサンに似合う歌になってしまった。
 
 
昔、酒場でピアノを弾いていると、そういうオジサンがやってきては「マイウェイ」を唄いたがった。
 
それも英語で唄いたがった。
 
 
 
当時、やさぐれてた私は心の中で「へん」と舌打ちして、ニコニコ伴奏した。
 
 
 
その歌を、震災後レコーディングした。
 
 
 
歌入れをしていると、録音ブースの電気が消えた。
録音機材の電気も消えた。
 
 
 
あ、まずいなあ。
 
 
あの頃はこういうことがよくあって、アチラ側の人たちの「想い」が沢山寄り集まってきているようだった。
 
 
断ち切られた、それぞれ「マイウェイ」が、見えてくるようだった。
 
 
 
 
なので。
最初はご供養の気持ちでも唄っていたが、だんだんと唄わなくなった。
 
 
今もほとんど唄うことがない。
 
なんとなく疎遠になっている。
 
(最後に唄ったのは、「BS日本のうた」だった気がする)
 
 
 
なのに、夢で唄おうということになった。
ところが、夢でもうまくいかなかった。
 
 
 
唄う前に目が覚めてしまったのだった。