この子が一日一日をきちんと積み重ねられますように。
そして、願わくばその一日一日が幸せでありますように。
きっとみんなの、そんな願いをこめられてつけられた名前なんだろうなあ。
事件が起きたとき、そう思った。
「暦(こよみ)ちゃん」
大分の山中で行方不明になって、昨日21時間ぶりに無事発見された2歳の女の子。
彼女を発見した父親の友人の腕に抱かれた暦ちゃんは、キョトンと周りを見つめた。
「あ。暦ちゃん、きっと妖精に会ったんだな」
瞬間そう思った。
妖精。あるいは、この世ならぬもの。
それは、先祖の魂だったかもしれない。
まるで神隠しのように、わずかの間にどこかへ消えてしまった暦ちゃん。
寒い真っ暗な山中で、どう過ごしたのか。
「二才という年齢が幸いしたのでしょう」とか。
「気温が高めだったので、良かったのでしょう」とか。
どれもこれも科学的に順当な識者の意見が並ぶ。
でも、きっと。違うな。
発見された暦ちゃんの「目」に確信した。
森の斜面に、ちょこんと座っていたという暦ちゃん。
彼女には、きっと誰も見えなかったものが見えていたんだな。
それらに守られ、なんの怖れもないまま、一晩を過ごしたのだな。
森の妖精の話は、海外でも良く聞く。
ちっちゃな子供たちに寄り添う、良き妖精たち。
でも。
きっと。
そのことは、すぐに忘れ去られてしまう。
子供とはそういうものだ。
ちっちゃな暦ちゃんも、そう。
大人になって、その時のことを思い出したら。
それは、ぼんやりと雲のようにしか浮かばないだろう。
それが大人になるってことだもの。
7歳までは神のうち。
そんな諺を聞いたことがある。
「ほうら、もうお帰り。元気でね」
そんな妖精の声が、聞こえる気がする。