おいしいカレー特集6♪ | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り



人間とは、暑い夏には「アツはナツいなあ」、寒い冬には「さみー。さみー。サミー・ソーサ!」とつまらぬ冗談を言ってしまう生き物である。少なくとも、僕の場合は、そうだ。熱男に寒男。そして、うだるように蒸し暑い日には何故かカレーを食べたくなってしまう習性を持つ。それは、頭上からのしかかってきそうな灰色の雲が空を覆い、じっとり湿っぽい熱気が大気中に籠る、不快で気怠い或る夏の一日の出来事だった。僕は禁断症状に見舞われていた。食欲が全開とは言い難いが、空腹であることに間違いは無いようだった。辛い奴を胃にぶっこみ、福神漬けを大量摂取する場面を想像するだけで、勝手に涎が溢れ出た。あれがなけりゃ一日が始まらねえ、今日を乗り切れねえ、何だか遣り切れなかった。僕はココイチ のカレーが恋しかった。


nice money card、通称「nimoca」を握り締めた僕はチャージ機のポケットへカードを差し込み、現金1000円を投入しチャージを完了させると、白に赤いラインが入った西鉄バスに飛び乗った。ステップ右手にある車載機にピッとカードをかざす。ピッと。しっかり一秒タッチだ。シートに腰を下ろし車窓に流れる見慣れた景色をぼうっと眺める。322号線は路肩が狭く脇を走る自転車とすれすれだ。幹線道路沿いに建つ民家の人は駐車すんのが面倒だろうな、等と考える。揺られる事十数分程度だろうか「合川」というバス停で僕は降車する。降ります釦を押すことに見事成功し幸福な気分が持続しての降車だった。


バス停から数十メートル先、久留米市東合川町3-18-18に「CURRY HOUSE CoCo壱番屋 久留米合川店」はあった。



ポークカレー1個、4辛1個を注文した。食べ終えて店を出る際に、僕は精算機の前で店員氏から526円を支払うように請求され、当然素直に従ったのだ。


4辛の刺激が舌を痺れさせる。その刺さるような痛みが心地よい。黒胡椒が病み付きになる。自然に汗が噴き出し、鼻水が止まらない。小さなサイコロみたいなポーク肉の中心を見定め、歯を振り下ろすと、ほんのりと、ささやかではあるが、確かに肉の脂身、肉汁を感じる事が出来る。


僕は勿論、ライスを残す。本来ならば分量的にちょうど良いバランスであり、先を見通す冷徹な目を持つ男たる僕が、ライスだけを余らせる等という愚を犯す訳は無いのだ。敢えてルーだけを啜り、更に舌が喉が痛いが我慢する。それは殆ど儀式と化している。まるで畑の土を均すような真剣さで、僕はライスを、スプーンの裏側を用いて平らにし形を整える。見栄えがいいように、そして、なるべく面積を大きくしようと試みる。


僕はおかわり無料ルーを頼む。僕の矜持だった。


はーい、と威勢の良い返事と共に皿が持って行かれる。ドナドナのメロディー。ほどなく返ってきた皿を一瞥した僕は、心の中心で、わお、と叫ぶ。いつもより余計にルーがかけられている気がする。素直に嬉しい。ライスの量を遙かに凌駕している。シャバシャバで水っぽいが、味は申し分ないカレー味だ。当たり前だ。カレーなのだから。ノーマルな辛さでも普通においしい事を僕は知る。まるでスープのように、僕はそれを掬って飲んだのだ。


それから慣例化した儀式は佳境を迎える。僕は気合で福神漬けを丸々食べ尽くす。塩分過剰摂取によものか、頭頂部のつむじ辺りを真上に引っぱられたかのような、じん、とした痛みを覚える。特異体質なのだろうか。まあ取り敢えず無事にミッションはコンプリートされた。


熱い胃袋をさすりながら、向かいのヤマダ電機で、値段を見る気も失せそうな高価そうな黒い革張りのマッサージチェアに凭れ掛かり、リモコンを操作し、圧力に呻き声を漏らしながら、精一杯リラックスした。で、それもまた当然のように、無料だった。



カレーハウス CoCo壱番屋 久留米合川店カレーライス / 久留米大学前駅
夜総合点★★★☆☆ 3.6