もすっ!をとこのHardぼいるど 「テラスロンリネス」 | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

「パンを食べますか?それとも人間やめますか?」




安普請賃貸住宅<ザ・ハイツK>の一室。深更、ぼんやりテレビジョン受像機に映るバラエティー番組を眺める男は、黒い目に昏く険しい光を宿していた。番組では若者が彼女が出来たと喜ぶ様子が放送されていた。




翌朝、一階の狭い庭の剪定作業に来たらしい造園業者の「あんた、いっぺんに持ってこんね!何往復せやんとね!ほんなこつ、要領の悪さあ!」という大声で、男は目を覚ました。そして、決意した。




「よおし、パンを食べよう!もすっ!」




それが男の生き様だった。そういう生き方しか、男は出来なかった。





男は久留米市通町7-14「パン・ド・キュイソン」さんへ辿り着いた。キュイソンを辞書で引いてみた。cuisson、焼く{煮る}こと(やけどのような)ひりひりする痛み、と説明してあった。男は暇なのだ。




ショーケースに入れられたパンを、口頭で店員さんに注文するスタイルだった。ミスド方式だ。男は、中腰の姿勢で通を気取り、素早く3個のパンを誂えた。本心は40分くらい吟味したかった。




と、ここで男の視界が誰もいないテラス席を捉えた。PPP氏の言葉が脳裏をよぎる。




「あそこで食べてもいいですか?」




パン3個の代金にホットコーヒーも注文し合計667円を支払った。それから恥や外聞といった観念に欠ける男は、幹線道路に面するテラス席に独りで座った。





温かい木の質感が可愛らしい小振りな盆で、パンとコーヒーが提供された。




クロワッサンソーセージ226円である。さくっとした外側に胡椒がまぶしてあり、いい味だ。ソーセージもいい肉を使っているようで、食べ応えがある。満足である。





パン・オ・レザン162円である。これは完全に格好いい名前で注文した。CDのジャケ買いというやつだ。普段食べているパンと違い、表面が固めだった。パンを噛み損ねて、自分の歯を噛んでしまい、きゅっきゅと口内で嫌な音がしてしまった。パンはもちろん、うまい。




クリームパン129円、やはり、ベタなパンも1個は食べておきたい。だが、こちらのクリームパンはベタでは無かった。手作りなのか、ふわふわして甘過ぎない至極のクリームが、たっぷり入っていた。前を走る車からの視線を忘れ、夢中で食べた。




(…パンを漢字で書くと、麺麭です)




静かに呟き、男は席を立った。さしむかいの席には、もちろん誰もいなかった。もすっ!












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