「よおし、パンを買いに行こう!もすっ!」
決意表明の雄叫びが、その虚室に響いた。もちろん、そこには誰もいなかった。
パンを購入し、パンを持ち帰り、虚室で一人もそもそパンを食べる計画の男だったが気が変わった。黒板の如き手書き看板にスープランチ410円との表示、その下側にミネストローネの写真、うまそうだ、男は魅了された。
店内左手に四つほど席がある。うら若き男女一組が座っているだけで、空いている。男は、ここで朝食を摂ろうと決め込み、盆とトングを元へ戻した。
美貌家な女性店員氏にスープランチを店内で食べたい旨を伝えた。まず、硝子陳列ケース上に並べられた80円のパンの中から二個、好きなパンを選択するよう申し渡された。人差し指をぷっくりした唇の真ん中に押し当て、首を鶏のように動かす男は、たっぷり時間をかけ、甘そうなパンと健康に良さそうなパンに決め、セットだと80円引きになるらしいホットコーヒーも同時に注文し、合計515円を支払った。女性店員氏が柔らかい微笑を浮かべていた。
窓に面した席に腰を落ち着けた男は、手持ち無沙汰だった。若いカップルの会話に耳をそばだてた。諜報活動の一環だった。
「ねーねー。わたしの好きな食べ物、あててみてん。ふふ。わからん?…答えは、プリンとメロンパン!」
男は目の前の食事に集中する。ミネストローネはさらっとした薄味のスープ、玉葱とともに数種類の豆がたっぷり入り、とってもヘルシーな一品だった。甘そうなパンは予想通り甘く、健康志向なパンは中がもっちりしていて美味だった。
(…パンを漢字で書くと、麵麭です)
誰にとも無く呟いた男は、虚室へ戻る。心底カップルが羨ましかった。嗚呼。もすっ!
誰にとも無く呟いた男は、虚室へ戻る。心底カップルが羨ましかった。嗚呼。もすっ!
OLIO (パン / 櫛原駅、宮の陣駅)
昼総合点★★★☆☆ 3.8