湘南ベルマーレの歴史と伝統 | Final Notice
今年、湘南ベルマーレはJリーグ2部で年間2位の成績を収めて、来季のJ1昇格を決めました。
そして、来年(2013年)は、ベルマーレ設立20周年です。

この記念すべき年に、1部リーグでシーズンを戦うことができるのは、チーム関係者・サポーターにとって2重の喜びとなることでしょう。きっとチームの関係者は今頃、とっておきのイベントや企画を練っていることでしょうね。(こんなことを書くとチーム関係者の方々にプレッシャーをかけることになるかもしれませんけども(笑

ベルマーレの歴史に興味をもって、少しでも調べた事がある方は既にご存じだと思いますが、現在の「湘南ベルマーレ」の前身は「フジタ工業サッカー部」です。フジタ工業サッカー部がJリーグに対して加盟申請をして認められたのが1993年。それにあわせてチームの名称を湘南ベルマーレとしたのです。来年は、それからちょうど20年目ということです。


ベルマーレを常に身近に感じていた方々にとって、この20年間は「とにかく波乱万丈だった」という思いが強いと思います。

Jリーグが発足してから1年遅れで、ジュビロ磐田とともにJリーグに加盟して、小島、名良橋、中田(英)など、日本を代表する選手を数多く輩出。一時はリーグ優勝に手が届くかと思うところまで成長したと思ったら、突然の親会社撤退によって資金難に見舞われ、止むにやまれず主力選手を大量に放出。結果としてその翌年、記録的な惨敗で2部リーグに降格し、それ以降は「万年J2クラブ」などと揶揄される時代が長く続きました。その間、幾度となく存続危機がささやかれました。そんなチームが20年たったいま、チームとしてあり続けているのは、関係者やサポーターの努力・知恵・情熱の賜物だと思います。素直に敬意を表したいと思います。


さてさて…ベルマーレの歴史をもう少しさかのぼってみると、ベルマーレの前身であるフジタ工業サッカー部が設立されたのは1968年(昭和43年)。湘南ベルマーレとしてJリーグに加盟する25年も前のことです。当時は「藤和不動産サッカー部」として栃木県に設立されました。

(このあたりの経緯はインターネット上に詳しく書かれたサイトが存在しますので、そちらを参照して戴きたいと思います。)

最近私が気付いたことは、ベルマーレの歴史と伝統は1968年から続いているのにもかかわらず、ベルマーレ関係者のイベントの打ち方やサポーターの意識を分析すると、どうやらその認識が欠けているのではないかということです。

ひとつ例をあげますと、2008年に行われたクラブ創立40周年を記念して行われた、「サポーターによる歴代ベストイレブン投票」の結果が分かりやすいと思います。その結果は以下のようになっています。

GK1小島伸幸(88~98)
DF2名良橋晃(90~96)
DF20洪明甫(97途中~98)
DF15パラシオス(01~04途中)
DF8岩本輝雄(91~97)
MF5田坂和昭(94~98)
MF10ベッチーニョ(93~96)
MF7中田英寿(95~98途中)
MF10アジエル(06~)
FW11石原直樹(03~)
FW10呂比須ワグナー(97~98)

藤和不動産、フジタ時代も含めての「クラブ創立40周年」であるにも関わらず、ベストイレブンとして選出されているのは、1993年のJリーグに加盟後に活躍した選手ばかりです。


もうひとつ例をあげてみましょう。

ここ数年、ホームスタジアムで行われる人気イベントの1つとして、ベルマーレOBを中心とした「ベルマーレレジェンド」というチームを結成して、芸能人サッカーチームと対戦する、というものがあるのですが、この「ベルマーレOB」のチームに入っているのも、全員がJリーグ加盟後の選手たちです。前身のフジタ時代の選手が一人も入っていません。まるで、Jリーグに加盟した1993年以前のベルマーレの歴史がぷっつりと途切れて消え去ってしまっているかのようです。

親会社が撤退してしまった時点で、チームと会社の縁が切れ、もうそれ以前のチームとはまるで別物のようになって一からスタートすることになった経緯はベルマーレファンならだれでも知っています。でもそれは長い歴史の中の1つの出来事であって、そこで歴史が一旦途絶えてしまったわけではないと思うのです。歴史は続いています。


少し調べるとわかりますが、Jリーグ発足前の藤和不動産・フジタ時代のクラブは、それはそれは輝かしい成績と素晴らしい人材に恵まれていました。Jリーグ加盟以前の代表的なOBとして今でも最も著名なのは、独特のイントネーションと辛口サッカー批評でおなじみのセルジオ越後氏でしょう。同じくサッカー解説者として活躍する宮澤ミシェル氏もOBです。かつてアジアの大砲と呼ばれ、日本代表として活躍した高木琢也氏はサンフレッチェ広島で活躍するイメージが強いかもしれませんが、大学を卒業後に初めて所属したチームはフジタでした。また、Jリーグの審判として2006年までピッチで笛を吹き、2002年、2006年のワールドカップで国際主審として笛を吹いた上川徹氏もかつてフジタでプレーした選手でした。

Jリーグ発足のインパクトはとても大きく、それまでサッカーを観なかった人たちの多くがサッカーに熱中するようになりました。「ベルマーレのOB」というと、まずファンの頭に浮かぶのはJリーグ加盟後の選手たちであるのは、仕方のないことかもしれません。ただ、それ以前から脈々と受け継がれてきた歴史と伝統にスポットライトが当たらないのは非常に残念でなりません。 ベルマーレの関係者は、ここにライトをあてて、もっとこのチームの歴史と伝統アピールしたほうがよいと思うのです。古くから脈々と受け継がれているものは、それだけで価値のあるものですし、近年発足した新興チームには決して真似ができないことです。そのことをチームの関係者やサポーターが誇りに思えるようなイメージ作りや広報活動を積極的に展開することは、決して損にはならいと思うのです。



ちなみに余談になるかもしれませんが、現在Jリーグに加盟しているチームの中で、Jリーグ発足前の歴史を含めて最も設立が早いのは京都サンガで、設立された年は1922年。大正11年と書いた方が、その古さが伝わるかも知れません。実は今年、クラブ創立90周年だったのですね。 つい先日までベルマーレと厳しいJ1昇格争いを続け、僅かの差で悲願達成とならなかったことを考えると、関係者の失望は想像以上のものがあるでしょう。

湘南ベルマーレの創立(1968年)は、Jリーグ加盟クラブ40チーム中では18番目の古さです。こんなことを書いておきながら、私がベルマーレの試合を観るようになったのは、ベルマーレがJリーグ加盟する1年前のことで、それ以前はサッカーにあまり興味がありませんでした。私自身の頭の中でも、日本サッカーの歴史はほぼJリーグ開始とともに始まったといっていいと思います。今回、この原稿を書くにあたって各チームの設立年を調べていて「日本サッカーの歴史は思ったよりも古いのだな」と思いました。