男女のマイプレイスの違い | 出力モード

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アウトプットがインプットの質を高めるのでは?

昨日に引き続き、日本マーケティング協会が発行している冊子「マーケティング・ホライズン11号」からの転載です。

全体テーマが「マイプレイス」(=居場所)というものなのですが、その中でも非常に興味深い記事を1つご紹介します。それは「マイプレイスに対する考えが男女でどう違うのか」という内容です。

執筆者は脳科学者であり、感性分析の第一人者である黒川伊保子さんです。僕は黒川さんの「夫婦脳」という著作を読みましたが、夫婦の考えがどうしてすれ違うのかを、脳の構造的な点に注目して解説をしていて非常に面白かったです。

夫婦脳―夫心と妻心は、なぜこうも相容れないのか (新潮文庫)/新潮社

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以下、マーケティング・ホライズンからの転載です。

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男性脳と女性脳は違う装置である

男性脳と女性脳は、違う進化を遂げてきた。

哺乳類のメスとオスは、生殖のリスクも、生殖に関わる役割も大きく違うので、脳の感性の質がまったく異なっているのである。

たとえば、女性脳は、生殖相手を厳しく厳選する。命懸けで一個体を生み出すので、遺伝子マッチングに失敗するわけにはいかないからだ。哺乳類のメスは、基本、オスに対する警戒信号が流れるようにできている。遺伝子相性の悪い相手を近づけないために。そうしておいて、視覚、触覚、嗅覚などをフル活動して、周囲の異性の遺伝子情報をキャッチし、満を持して、この警戒スイッチを切る。これが、女性脳にとっての「恋」なのである。

特に、嗅覚細胞がキャッチするフェロモンと呼ばれる匂い物質は、免疫抗体の型の遺伝子と匂いのパターンが一致すると言われ、遺伝子マッチングの最大の情報源。免疫抗体の型がわかるということは、その生体が、どんな外部環境に耐えられるかがわかるということで、「女の恋」は、かなり合理的なのである。

このフェロモンセンサーの感度が最大に働く20 代の女子などは、イケメン 10 人を並べても、「あり」1 名、「絶対になし」9 名に分かれるほど好き嫌いが激しい。しかも、それは客観的なイケメン度や人間性と何ら関係ないので、男子から見たら「女はわからん」ということになる。もちろん、女性本人も「わかんない」のである。お見合いで完璧な人を出されてもピンとこない自分に、恋する能力が低いんじゃないかと自信を失ったりね (微笑)。

しかしながら、遺伝子相性のいい男子に出逢えばちゃんと恋に落ち、警戒スイッチオフ期間(長い女性でも 3 年ほど)は、この相手にだけ一途になれる。なにせ、何千人に一人の遺伝子相性の相手だと潜在脳が知っているから、女の恋は確信が深いのだ。

一方で、遺伝子をバラまくほうが得な哺乳類のオスは、異性を積極的に嫌わない。目の前の異性が著しく発情したら、つられて鷹揚に発情してやる…くらいの男子の方が遺伝子を多く残せるので、目の前の異性の観察力がとんと低い。感性が鈍いのではなく、男性ホルモンによって、わざわざ制動されているのである。金属の研磨面を触って数ミクロンの傷がわかる技師も、妻が髪型を変えたのに気づかないはず。脳という装置は、本当に面白い。

というわけで、男性の生殖ホルモン・テストステロンが豊富に分泌している 20 代男子なら、美女 10 名を並べられたら、「絶対になし」は 1 名いるかいないかのはず。このため、恋に対して、女性脳ほど確信が深くないのである。多くの男子が半信半疑のまま結婚し、長い時の積み重ねの末に「この人しかいなかった」とやっと思う。情熱的なプロポーズも愛のことばも無かった男が、妻に先立たれてすっかり生きる気力を失ってしまうことも、脳科学的には定番の事態だ。

だから、女子は、恋に盛り上がらない恋人に傷つくこともじれることもない。男子は、女子にアプローチして嫌われても、客観的相対的男子力を否定されたことにはならないので、気にしないでいい。向井理くんだって、きっとフラれたことがある。

男女脳の感性の違い、わかっていただけましたか?

実は、この違いを知ることは、マーケティング戦略にも大きな示唆を与えてくれる。女子のマイプレイスと男子のマイプレイス、その仕掛けにも大きな違いがあるのである。

男性脳は定点が必要である

男性は、ながらく狩りをしてきた性なので、空間認識力に長けている。

遠くから飛んでくる異物に、それが敵であれ獲物であれ、瞬時に照準が合わなきゃいけないし、その動きの特性や、刻々変わる距離感をつかむ必要がある。

近づいてくるものを瞬時に「異物」だと認知するためには、身辺の事象認知に使う信号をできるだけ使わないようにしておく必要がある。身の回りの変化が激しいと、神経系が混乱し、ここ一番の瞬時の意識集中が遅れるからだ。最高時速が 350Kmにも達する最高峰バイクのレーサーたちは、キャビンに置かれたヘルメットやグローブの位置関係が少しずれても、その日のブレーキ操作に失敗したりするという。

1000 分の一秒を競う男でなくても、神経系の乱れはイライラ感を生み、その日の眠りや仕事の質を落とす。だから、男子の机の上や本棚を、勝手に片付けてはいけないのだ。男と暮らす女は、定番でいなければならない。「相も変わらず、そこにいる」と言う事象を演出するのが存外大事。不機嫌な妻なら、ずっと不機嫌でいてくれた方が、男性脳は安心している。「だらしない恰好で家にいる」のが定番の妻が、急におしゃれをして出かけると神経系に強いストレスが生じ、不安が募る。「どこに行く? 何時に帰る?」と目くじら立てるのは不安だからであって、何も「主婦は家にいろ」なんて、かたくななことは一切考えていないのである。

逆にいえば、男性脳は、「相も変らぬ定番の事態」に、ことのほか好感度が高い。行きつけの床屋をなかなか変えないし、行きつけの飲み屋にふらりと寄るのが好き。物理空間だけじゃなく概念空間も一緒。「いつもの仲間」が好きなので、SNS は、意外に男性脳に快感なのだろう。「いつもの仲間と、いつものように釣りに行く」のように、概念空間の定番と物理空間の定番のかけ合わせは、かなり嬉しいことになる。それに「月の第三日曜日」のように、時間の定番も組み合わせると、さらに嬉しいらしい。

男の隠れ家は、男性脳の必需品

男性脳は、空間認識の座標軸を立てるために、複数の観測定点を持つ必要がある。家はその一つにしかすぎず、一定点では座標軸が立たない。しかも、空間の広さをつかむためには、最低 3 点が必要なのである。家と職場と、もう一つ。というわけで、「男の隠れ家」は、男性脳の必需品なのだ。

もちろん、それが、家の中にあると言う男子もいる。書斎やガレージなど、完全に家族から意識を乖離できる場所があれば、観測定点の3つめになりうる。

私は社交ダンスを習っているのだが、妻に内緒で教室に通っている男子もいる。真面目なダンス愛好家で、男女関係の怪しいことは一切ないので、「奥様も誘えばいいのに。きっと喜ばれますよ」と、何も知らない周囲の女子は言う。けれど、それはどうかしら。奥さまが喜んでついてきたら、この男子は、このダンス教室への興味を自然に失ってしまうに違いない。ダンス教室が、第三定点じゃなくなるわけだから。

いい男は、外に、一つ以上の観測定点を求める。

そうして、それには、二つの条件が要る。妻や日頃の仕事仲間が関与していないこと、もう一つは、その場所が「相も変らぬ風情」であることだ。

ある会員制の異業種交流会に講師として参加したら、日の丸弁当が出てきたことがある。貧しい日本を知る世代の経営者たちが集って、「梅干しだけの弁当」を食べ、若き日を思うひとときを過ごすのである。これはまた見事な定点だなぁと感服させていただいた。

もしも、男性相手に「男性脳の観測定点」を提供できたら、コストパフォーマンスをうんぬん言わず、男たちは何十年でも通ってくる。祇園や銀座や新地の高級クラブは、その構造で出来上がっているのではないかしら。

万年筆のコレクションや、ワインのコレクションもまた、男性脳の観測定点癖を刺激するのだろう。そこに圧倒的な伝統があり、うんちくを深めていける趣味は、「いつでもそこに行ける」概念上の観測定点だから。

女性脳はマイプレイスに変化を求める

ちなみに、女性脳は、日常をどっぷり愛する脳である。今心砕いている場所が日常であり、マイプレイスだ。だから、家庭以外のマイプレイスがけっこう変わる。女性脳では、マイプレイスとマイブームはほぼ同義語といってもいい。

一定期間どっぷりつかるマイプレイス。その代わり、そのマイプレイスに変化がないとやっていけない。「今だけ限定」「あなただけ特別」「今日は記念日♪ 夫婦でおしゃれしておでかけ」なんていう演出に心酔わされるのである。

なのに、「日常の変化」は、男性脳の大の苦手。結婚記念日に着飾った妻と高級ワイン…なんて、男性脳的にはぞっとするだろうなぁ。お気の毒に。

(引用ここまで)

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僕は以前から飲食店はレディスサービスなんてやめて、おじさんを狙った方がいいとずっと言っているんですが、まさに黒川さんの主張と重なります。もちろん、ひとくくりでは語れませんが、男性に「行きつけ」と思ってもらうことは、店にとってはものすごい財産なのです。

「ベースは変わらず、でも飽きさせない程度に一工夫」。こんな感じを実践できると強いんじゃないかと思います。