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アウトプットがインプットの質を高めるのでは?



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またしてもすっかり更新していませんでした。。。

日本マーケティング協会発行の「マーケティング・ホライズン」の8月号では責任編集でしたが、特集テーマを「大人の学び」としました。号の全体を説明するための文章を転載します。

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先日、とある商業ディベロッパーの方と話をしていたときに、ふと質問を投げかけられた。ディベロッパーとしては、新たな施設をつくるたびに「コンセプト」を考える必要がある。そしてそのコンセプトはただ耳あたりの良い言葉であるだけでは意味がなく、具体的な機能などに落とし込む必要がある。

例えば、「ガーデンテラス」と掲げるならば気持ち良いテラスが欠かせないし、「キッズパラダイス」と言うならば子どもが喜ぶ広場やテナントは必須である。そんなコンセプトを考えていくうえで、「果たしてこれからの商業施設で、一体何を大切なテーマとして掲げればよいのだろう?」という、至極真っ当な疑問をその方は抱いたのだ。

私はとっさに「『学び』なんかアリじゃないですかね?」と返した。このときには深い考えや確信があってのことではなかったのだが、後から思い返してみるとあながち筋の悪いアイディアではないかもしれないと思うようになった。

巻頭にも記したが、世代を問わずモノを買わなくなる傾向が強まりつつある中、「体験」の価値は逆に増している。そして「学び」にはそうした体験をより強化・深化させる力がある。これから時代が進むに連れて、学びの重要性はより一層高まっていくのではないだろうか。

子どもの教育問題はいつの時代も重要なトピックであるが、時間とお金の使い道に迷う大人にとっても、学びというテーマは避けて通れないのではないか。次第にそんな風に考えるようになった。

「大人の学び」自体は昔からあるもので、特段新しい切り口というわけではないが、社会変化とともにそうした学びにも動きが見られる。例えば、少子化の影響を受けた教育機関・企業は、マーケットの縮小に対してただ指をくわえて見ているわけにはいかない。そこで目をつけたのが「大人」や「シニア」だ。

大学や大学院は社会人やシニア層などの「セカンドステージ」向けカリキュラムを積極的に導入している。また家庭教師のトライは「大人の家庭教師」というコースを充実させたり、Z会(増進会出版社)も大人向けプログラムに力を入れたりしている。大学全入時代が近づき、「浪人生」相手のビジネスが難しい予備校においても同様である。

それらはシニア層の生涯学習ニーズを取り込むとともに、ビジネスマンの「サバイバル術ニーズ」にも応えようとしているが、このサバイバル術に関しては、従来のMBAに加えてテクノロジーの進化によるサービスの充実がめまぐるしい。特にオンラインによる動画配信やビデオ通話サービスだ。

英会話についてはフィリピンなどを拠点にした格安のサービスが急速に普及したし、授業の動画配信という点においては、schoo(スクー)というサービスがプログラミングやウェブデザインなどの講座で人気を獲得している。あるいはクローズドで希少性の高い情報を得ようとする人たちの間では、かつては有料メルマガが一時的に流行したが、次第にそれはオンラインサロン(ネット上での会員制サロン)に移行した。

こうしたある種切実な学びの場以外に、ライフスタイルを充実させるようなコンテンツを提供するプラットフォームも増えている。「丸の内朝大学」を筆頭に、若めの世代に向けた気軽なカルチャースクールはこの数年で爆発的に増えたし、一世を風靡して今やすっかり定着した感のある「野菜ソムリエ」のような資格認定講座も増える一方である。

受け手・学び手という立場から見ると、提供されるコンテンツやそれを届ける場やメディアが数限りなく存在するようになり、混乱してしまうのももっともだろう。

そこでここでは、「大人の学び」という領域に対して、「企業としてどのような向き合い方がありうるか」を考えてみたい。ここではそれを4つのタイプに分類してみる。

1つ目は「シニアの生涯学習ニーズの刈り取り」である。先に述べたようにシニアの生涯学習ニーズは昔から顕在化しているが、よりアクティブな人たちが増えることで、ここにはさらに大きなマーケットがあると考えられる。

例えば、歴史の教科書で有名な山川出版社は学生向けの教科書をリバイスした「もう一度読む」というシリーズを発売したところ、非常に好調な売り上げを示しているようだ。このシニアマーケットに向き合うというのはもっともシンプルなアプローチだろう。

次に、「学びを活用することで、自社の商品・サービスを強化する」という方法もある。トップインタビューにご登場いただいたクラブツーリズムはまさにこのタイプに当てはまる。学ぶことで、よりその商品が欲しくなったり、理解が深まってリピートしたりするという好循環が期待できる。これは「学び」を効果的な販促ツールに仕立てる作戦と言える。後から出てくるハイエンドカメラのケースもまさにこれに合致するだろう。

3番目としては、「学びの場の提供による、顧客との接点づくり」が挙げられる。伊勢丹新宿本店が提供する「OTOMANA(オトマナ)」というスクールについても具体的に紹介するが、こうした場があることで顧客は店に足を運ぶ理由が生まれる。もちろん伊勢丹としては商品販売に繋げたい意図はあるのだが、まずは「keep in touch」の状態にしていくこと自体に意味があるだろう。

大人向けではないが、リクルートが提供する学習ツール「スタディサプリ」は、ユーザーの膨大なデータベースを保有するととともに、リクルートにとってはユーザーとの貴重な接点となっている。

最後の4番目は、顧客ではなく、むしろインナーのほうを向いたアプローチだ。ますます「人材が事業の成否のカギ」という流れが強まる中、「社員教育」を重視する企業は多いだろう。しかし形骸化したプログラムになっているところも多いはずで、それをいかに魅力的にブラッシュアップできるかは多くの企業にとって向き合うべきテーマだろう。本号ではヤフーの社員研修をご紹介したい。

またそうした研修プログラムにおいて、いかに受講者に能動的に取り組んでもらうかも極めて大切な視点であるが、1つの有効な切り口が最近注目の「アクティブラーニング」だ。電通総研の「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」の活動を参考にしていただきたい。

ここでは便宜的に4つのアプローチに分類してみたが、皆さんの企業でもこの分類にとらわれずに、ぜひ「大人の学び」について何らかの取り組みを始めて欲しいと思う。学びに関する知見を深めていくことは、きっと組織の活性化や企業活動そのものにとってプラスに働くと信じている。
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すっかりこちらへの告知をさぼってしまっていますが、WEBでの連載は隔週で続いています。最新のテーマは「豆とハーブとスパイス」。パクチーブームの背景には何があるのかを考えてみました。
記事はこちらからどうぞ。
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PRESIDENT Onlineの連載、更新されました。
今回はこの数年注目されているクラフトビールについてです。
記事はこちらからどうぞ。
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日本マーケティング協会が発行する「マーケティング・ホライズン」。2015年の9号の編集責任者を務めましたが、特集テーマは「カジュアル・リッチ」としました。その提唱者であるゼットンの稲本健一さんにインタビューしました。
※協会の許可を得て、全文を転載します。

※「カジュアル・リッチ」とは何かについてはこちら。

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ーまずはゼットンという会社について教えてください。

稲本:創業から今年でちょうど20年になります が、「店づくりは街づくり」という理念のもとに飲食事業を展開しています。直近の売上が約96億円です。店舗数は期間限定でオープンしている店舗もありますので流動的ですが、現在88店舗です。2006年には名証セントレックスに上場しました。

ー展開している業態の特徴などについてお話しいただけますか。

稲本:原則として「チェーンレストランはやらない」というスタンスです。5~6年ほど前からは「アロハテーブル」など、広がりが見込める業態はチェーン展開をはじめています。それからもう1つの特徴としては、路面店や商業施設など普通の立地以外に、庭園や美術館あるいは横浜マリンタワ ーなどいわゆる「公共施設」にも出店しています。売上比率はおおよそ商業6に対して公共4くらいです。

ー今回の特集テーマである「カジュアル・リッチ」ですが、数年前に稲本さんが口にしているのを聞いて、非常に印象に残ったキーワードでし た。この言葉はどのような意味を込めて使っていたのでしょうか。

稲本:「カジュアル・リッチ」の対極にある言葉は「リッチ・プア」ですが、こちらの方がまずイメージしやすいと思います。「リッチ・プア」とは要するに、身なりはリッチだけれど心が貧しい人のことです。派手な身なりをして超高級なレス トランで食事をしていても、実は金の工面に追われていたり、他人の目ばかり気にしてまったく気持ちに余裕がない人っていますよね。逆に服装はTシャツにビーチサンダルと、ものすごくカジュアルかもしれないけれど、内面はすごく満たされているというスタイルもあって、それを「カジュアル・リッチ」と呼んだわけです。

ーいつ頃からそのキーワードを意識していたんでしょうか。

稲本:いや、すっかり忘れましたけれど(笑)、ただ愛知万博が開かれた10年前に「アロハテーブル」を出店したときには、そんなことを意識していたのだと思います。

ーハワイアンスタイルのカフェレストランを始めた経緯について教えていただけますか。

稲本:元々ハワイアンコーヒーの事業に少し関わっていたというのもあるのですが、ハワイってすごく人に優しいんですよ。小さな子どもからお年寄りまで、あらゆる人を包み込む懐の深さがあるのです。流れている時間もゆっくりですよね。ハワイアンの店では、働くスタッフも気合いの入った居酒屋のように「いらっしゃいませー!!!」って大声を張り上げる必要もなくて(笑)、ゆったりした素敵な時間をお客さんと共有するという感覚があります。

ーまさにハワイとかハワイアンという存在自体が「カジュアル・リッチ」なんですね。稲本さんは生活の拠点としてもハワイにいる時間が長いそうですね。

稲本:月のうち3 分の1はハワイにいます。別にハワイアンの店をやるためにハワイにいるわけではないのですが、店の作り手・送り手である自分がハワイと密接に関わっていることによって、店舗に滲み出てくるものがあると思います。今の時代って、経営者をはじめ送り手のライフスタイルから生まれてくる商品やサービスじゃないと、お客さんに対する説得力とか納得感は生まれにくいのではないでしょうか。アップルはスティーブ・ ジョブズのライフスタイルがあったからこそ生まれたと思いますし、ユニクロも柳井さんのライフスタイルとすごく関係があるのだと感じます。

ープライベートでトライアスロンやサーフィンをやられていますが、それも店づくりと何か関係がありますか。

稲本:肉を使わないベジバーガーとかアサイーボウルを出すようなヘルシーなレストランを運営していますけれど、その店の経営者である自分が不健康だったらダメですよね。自然と体を動かすようなライフスタイルになっていったのですが、自分のライフスタイルと店づくりは自然とリンクしていきますね。

ーゼットンでは、数年前からおしゃれなビアガーデンも積極的に展開していますよね。これはどのような意図があるんでしょうか。

稲本:今、外食の大事な価値って「自宅では味わえないこと」です。焼肉を家でやると部屋が臭くなって大変ですよね。だったら焼肉屋で存分に楽しんだ方がいい。あるいは焼き鳥だって、家で炭火ではなかなか焼けません。最近串カツが注目されていたりしますけれど、自宅で揚げ物をしなくなっていますから、これも外食ならではの強みです。そうやって考えたときに、ビアガーデンは要するに「青空レストラン」ですが、自宅でやろうとしたらなかなか準備が大変です。

ーでも、外で飲むビールは本当においしいですよね。

稲本:一年中エアコンの効いたところで生活していると、季節感ってなくなっていくじゃないです か。でもビアガーデンとなると、その暑さも含めて季節というものを強く感じられるんです。そこで得られるのは、まさに気持ちのリッチさです。

ー飲食店を経営していく上で、そしてこれから大事にしていきたいキーワードのようなものはありますか。

稲本:ベースにあるのはやはり「カジュアル・リッチ」です。ただ、その上にこれから乗せていきたいのが「ヘルシー × ハイテンション」です。

ー「ヘルシー」と「ハイテンション」の融合ですか?

稲本:そうです。「ヘルシー」というのは確かに今の時代の大事な価値観なんですが、ともすると地味だったり保守的だったりして、つまらない表現になりがちです。

ー確かに食べ物でヘルシーっていうと、どうしても禁欲的だったり静的だったりして、食欲とか本能からは遠くなりますね。

稲本:そうなんです。そこにあえて「ハイテンション」というニュアンスをぶつけたいんです。「アロハテーブル」の派生業態というわけではないですが、最近「アロハアミーゴ」という店を出店しています。これはハワイアンとメキシカンをあわせたものです。メキシカンって「ハイテンション」 を表現するにはとてもいい料理です。タコスとかテキーラとかって陽気な感じがしますよね。でも、タコスには野菜をたっぷりはさんであったりして、実はすごくヘルシーな料理です。ハワイアンだけでは描けなかった「ヘルシー × ハイテンション」という世界に、アロハアミーゴではトライしています。

ーゼットンが経営している飲食店は、カジュアル・リッチな価値観に大きく依拠していますが、世の中の高級レストランについてはどう思いますか。

稲本:例えばミシュランガイドで三つ星を獲得している「ジョエル・ロブション」というフレンチレストランがありますけれども、やはりすごくいいですよ。「リッチ・リッチ」のスタイル、つまり、確かにスタイルは極めてゴージャスだけれど、実際に精神的にもリッチな気分にさせてくれます。「グランメゾン」と呼ばれるようなそういう立派なレストランがあるからこそ、僕らがやっているような「カジュアル・リッチ」も活きてくるのだと思います。

ー稲本さんが思う「今の時代のレストラン」とはどういうものですか。

稲本: 今、全世界的にチェーンレストランに対する逆風が吹いていますけれど、この流れが元に戻るということはないと思います。レストランに限らず小さな個人経営のカフェまで「イートローカ ル(イートローカリー)」と言っていますからね。それはチェーンレストランがこれまで大々的に推し進めてきた価値とはまったく異なるものです。

ー「東京」の飲食店でも変化が見られますか。

稲本:そもそも昔のように「東京で一花咲かす」 とか「一旗揚げる」というようなことを求める人が少なくなりましたね。今、地方にいる起業家は東京を見ていないですよ。例えばフレンチとかイタリアンの料理人は、日本の地方からそのまま現地に修行にいって、帰国すると地元で店を開きます。仮に外国ではなく東京で修行をしたとしても、 東京ではなく故郷に店を出すという人が多いですね。そういう店は自分がやっていることに対して魂がこもっているから、行くとドキっとさせられます。飲食業界の最先端は今や東京だけではありません。

ー他に業界的に注目すべき動きはありますか。

稲本:ファッション業界の人たちが最近飲食業に参入するケースが増えています。ベースには、飲食自体がかつてないほど「ファッション化」している側面があると思います。インスタグラムとか見ていると、アップされている写真って大体「風景」と「飲食」だったりします。きれいな夕日なんかはやたら多いですよね。夕日もおいしい食べ 物も消えてなくなる瞬間的なもので、そこには「はかなさ」があるんです。そういう感覚がまさに今の時代の「ファッション」なんだと感じます。

ー以前提唱していた「カジュアル・リッチ」は、 時代とともに変わってきましたか。

稲本:昔はまだ細かった「カジュアル・リッチ」という流れはずいぶん太くなったと感じます。と同時に、気持ちのリッチという部分については、より深くなったり、細分化したりしていると思います。ただ「心地よい」というだけではなくて、 例えば食べ物であれば安全とか安心とかを求める声は強まっていますけれど、これに応えることも「リッチ」の1つのあり方です。人々が「この洋服は誰がどこでどんな風につくっているのか」とか「この本を書いている人は実はどんな人?」とか、その背景に至るまでを知りたがっていますし、そういう深掘りができるようになってきました。背景を知ること自体が気持ちのリッチさに繋がっているわけです。こういった大きな流れもすべて「カジュアル・リッチ」から続いているものだと思います。ただし、そうだとするならば、当時の自分が「リッチ・プア」の対極として捉えていたニュアンスとは少し変わってきたようにも感じます。 そもそも、人々が求めている精神的な価値に対して「リッチ」という言葉が本当にふさわしいかどうかは、少々微妙になってきたかもしれません。

ー逆に今、ダメだと感じる価値とか言葉ってありますか。

稲本:この時代に「チープ」っていうのは、絶対にやってはいけないことですね。スタイルが高級だろうがカジュアルだろうが、「心のリッチ」という要件は外せないはずです。ところがチープは その真逆にあります。チープとカジュアルはまったく違う概念ですから、ここは気をつけないといけません。

ーチープという言葉から僕が連想するのは「ファストファッション」です。ファストファッションは今も一定の支持は集めているんだと思いますが、それは「カジュアル・リッチ」ではないと思います。あれは「コスパ」の話であって、多くの人が心のリッチをそこから感じているとは思えないんですよね。

稲本:人は何だかんだ言っても個性を欲していると思います。以前はファストファッションをあえて選んでいる自分自身を、ある意味「個性的」と思えたかもしれませんけれど、今はみんなが着すぎていて「制服」みたいになってしまいましたよね。今の時代を表す別のキーワードが「自由」だとするならば、制服的なものを感じさせるファストファッションは時代とは合っていないのかもしれません。

ーこの「カジュアル・リッチ」という価値観は今後もまだ続いていくと思いますか。

稲本:カジュアル・リッチとかスローライフとか、こういう感覚はこれからもずっと続いていくと思いますよ。でもそういう精神的に豊かな暮らしを可能にしているのが、インターネットをはじめとする最先端のテクノロジーがあってこそというの は、ある意味皮肉というか不思議なものですね。
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日本マーケティング協会が発行する「マーケティング・ホライズン」。2015年の9号の編集責任者を務めましたが、特集テーマは「カジュアル・リッチ」としました。耳慣れない言葉だと思いますが、こちらは巻頭言として書いた文章です。
※協会の許可を得て全文を転載します。

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「カジュアル・リッチ」、おそらく耳慣れない言葉であろう。一種の造語であるから、それも当然だ。ファッションの世界では、高級服をカジュアルに品良く着こなすスタイルのことを「リッチ・カジュアル」と表現することがあるが、ここではそうした意味合いで使用しているのではない。「カジュアル・リッチ」を端的に説明するならば、「入り口はカジュアルに、けれども、その先に広がっている世界は精神的にとても豊かなもの」というニュアンスである。

わかりやすい例として、「フランス料理とワインを楽しみたい」というケースを考えてみよう。かつては、記念日で重宝するような超高級フレンチレストランはとても人気があり、人々の憧れであった。もちろん、今もそうしたレストランで繁盛している店はある。しかし、この数年、もっと気軽にワインと料理を楽しめるビストロ(フランス料理の食堂)やバルと呼ばれるような店が急増した。高級レストランとビストロでは、支払い価格に大きな差があるのは言うまでもなく、生活者の懐事情がビストロ人気に繋がっているのは間違いない。

しかし、その理由は決してお金の問題だけではないはずだ。たとえ評価が高かったとしても自身に緊張感を強いるような超高級レストランに行くよりも、己の価値観と合うような気軽なビストロの方がむしろ好ましいという感覚を持つ人が増えているのではないだろうか。自分のフィーリングに合うカジュアルなビストロで、大切な人や気心の知れたスタッフと過ごす時間は、心を満たしてくれるはずだ。それはある種、権威的だったり、記号的だったりする高級レストランでは得られない時間と体験なのではないか。

ここで挙げたレストランのケースに限らず、世の中のあちこちでこうした「気配」を感じるのだ。安易に「車離れ」のような言葉は使いたくないが、車よりも自転車を選びたいという感覚。あるいは住まいを選ぶ際にも、高級住宅地や高級レジデンスよりも、好きな街の雰囲気の良い中古物件を、自分の手でリノベーションをしたいというニーズ。あるいは、海外の高級ブランドの服やアクセサリーではなく、作り手の顔が見えるハンドメイドの作品を買いたいという気分。そんな空気の高まりが感じられるのだが、そのような一連のスタイルをここでは「カジュアル・リッチ」と呼んでいる。

ここで気をつけたいのは、「コストパフォーマンス」の話をしているわけではないという点だ。例えば、ファストファッションは価格的にはとてもカジュアルだが、「ファストファッションが大好きで、それを着ると心が満たされる」ということではないだろう。そうではなく、「ファストファッションで十分」という感覚だと思われる。これはここで言う「カジュアル・リッチ」ではなく、「コストパフォーマンスが良い」という話にすぎない。あるいは、若い世代でよく言われる、「お金がなくたって幸せ」という話とも関係ない。

あえてお金について言うならば、「高級レストランに行ったり、自動車を買ったりするお金はあるのだけれど、そうではなくてむしろ、自分が自分らしくいられるような使い方をしたい」というのが、ここで言うカジュアル・リッチの本質だ。他者や世間の評価(ブランドや絶対的な価格)ではなく、リラックスして心から楽しめるようものを選ぶ傾向が強まっているように感じられるのだが、今号ではそうした事例を取り上げてみたいと思う。

※ゼットン稲本健一氏へのインタビューはこちら。
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