別冊少年マガジン 2015年2月号 [2015年1月9日発売] [雑誌]
講談社


別冊少年マガジン2月号で諫山創さんの『進撃の巨人』第65話「夢と呪い」を読みました!

いよいよ物語もエンディングが近くなってきたことを予想させる「進撃の巨人」ですが、毎月少しずつ秘密が明かされて行きます。前回はエレンの父・グリシャがヒストリアの姉・フリーダを食うことによってレイス家に受け継がれてきた『巨人の力』が失われてしまったので、ヒストリアが巨人化しエレンを食うことによってその力をレイス家に取り戻さなければ、人類は巨人を倒し、世界を救うことが出来ない、というような話になっていました。

そしてそこに現れたのが切り裂きケニー、中央憲兵のケニー・アッカーマン隊長でした。ケニーはどうやら、自分が巨人化してエレンを食うことによって自分が巨人を操る力を手に入れ、世界を支配する真の王になるつもりだったようです。それができない、と知るところまでで先月は終わりました。

今月は、ケニーの回想からです。若き日のケニーは、「切り裂きケニー」の名の通り、自分たちに近づく憲兵を次々に殺していました。ケニーは、アッカーマン一族のことについて、死の床にある祖父に本当のことを聞き出そうとしているのです。

ケニーの妹・クシェルは、(おそらくは王都の)地下街で娼婦になっていて、客の子を産むと言って聞かない、のだそうです。おそらくはこの生まれて来るはずの子がリヴァイなのだ、ということになるでしょう。そして「分家」はシガンシナの当たりに移ったと。おそらくはこの分家が、ミカサの父親たちの一家なのでしょうね。

ケニーは聞きます。「一体どうなってる。アッカーマン家はかつて王側近の武家だったそうなのに、なぜ一族根絶やし寸前にされているのか」と。祖父はいいます。「アッカーマン家は王政に恨まれているのではなく、恐れられているのだ」と。もともとアッカーマン家は人類存続の担い手である王政中枢のひとつだったのだそうです。そしてその中枢の家々以外の大半の人類は、「ひとつの血縁からなる単一の民族」なのだそうです。

・・・???

大半の人類がひとつの血縁で、王政中枢のみがそれぞれ独立した別個の血族?

なんだか話がきな臭くなってきました。

「ひとつの血縁からなる単一の民族」なんて、怖すぎます。

それはコニーの出身の村のように、無知性巨人になってしまう民族、なのかな、というアイデアが脳裏に走りましたが、さてどうか。

その他には東洋人と言う我々とかけ離れた人種の家もある、と祖父はいいます。ミカサの母は東洋人でしたから、ミカサは二重に特別の人間だということになりますね。

王は巨人の力を受け継ぎ代々保持している。その力で人類を守る壁を築き上げた。そして人類は壁の外の歴史を喪失しているが、それは「人類すべての記憶を塗り替え過去の歴史を根絶し、一糸乱れぬ平和を実現する」という「王の理想」を実現するためだった、と祖父は語ります。

しかし、アッカーマン家ら少数派の血族は記憶に王の影響を受けていない。記憶を改竄出来るのは「大多数の民族」だけなのだと。王が理想を実現するためには、その血族たちが黙秘しなければならない。しかし、その思想に異を唱えたのが、アッカーマン家と東洋人の一族だったのだそうです。

うわあああ。

うわあああ。

ミカサちゃん…

エラい血筋に生まれてきましたね…リヴァイやケニーもそうだけど。

そしてアッカーマン家の当主は自らの命と引き換えにアッカーマン家の存続を求めて処刑されたが、今や反故になってしまった。

それがケニーの祖父(おそらくはリヴァイの曾祖父)が語った物語だったのです。

「俺は信じるぜ、そのもの語りを。その方が面白い。」と回想の中のケニー。「と思ったんだがな。」と現在のケニー。この切り替え、上手いなあと思います。

ケニーはレイス卿の胸倉をつかんで軽々と持ち上げ、その左目に散弾銃を押し付けます。

「継承の儀式の日だから本当のことを言うだろう」と、ケニーはこの日を待っていたのでした。「さんざん翻弄し利用してくれたものだな」というケニー。胸ぐらをつかまれたレイス卿は、「感謝する。」とさらっといいます。ケニーを中枢に引き入れたのは、レイス卿の弟、つまりフリーダの前代の巨人の能力を持っていたウーリだったのだそうです。

「やめろ!」と言ってヒストリアは銃を奪います。しかしケニーは簡単に取り戻すと、ヒストリアにいいます。「お前はなんて哀れなんだヒストリア。この親父はお前を化け物に変えてエレンを食わせようとしてんだとよ」と。

ヒストリアはエレンの顔を見て恐れた目をしますが表情を変え、「それが私の使命でしょ?」と言います。

「私はエレンを食って!姉さんを取り返す!そして世界の歴史を継承し、この世から巨人を駆逐する!それが私の使命よ!」そうヒストリアは叫ぶのでした。

エレンはそのヒストリアの顔を瞠目してみています。

「巨人を駆逐する」。それはまさにエレンのアイデンティティそのものなわけですね。

それを、ヒストリアが高々と宣言した。そして、それによってエレンの中の何かが崩れてしまったのかもしれない。そんな気がちょっとしました。

ケニーはそんなヒストリアに、ロッド・レイス卿がどんなにひどい男か言い募ります。しかしレイス卿は、まだ話してないことがある、と言います。私は巨人になるわけにはいかない。他の者を信用してはならない、と。そしてケニーに、「お前の野望は叶わないが、お前は自由だ。他の生き甲斐を探して長生きしろ」と言います。

・・・滅茶苦茶ですね。(笑)

何かこの親父、言ってることがどこまで本当でどこまで本気なのかもよくわかりません。そして、他の人たちもなぜレイス卿のいうことをこんなに信じるのか、それもわからないですね。

考えられることとしては「王だから」ということしかありません。すべてを知っているレイス家の家長であり、それが一番重要な継承の儀式のときにヒストリアに嘘を伝えることはないだろう、と思ってるからなのですね。

しかし、レイス卿の知っていることが正しいとは限らない。レイス卿の言っていることが正しいならばなぜ、エレンの父グリシャはあえてフリーダと戦い、その記憶を自分を食わせてまでエレンに継承させたのか。あの猿の正体は何か。地下室の鍵の意味とは。ユミルたちのいう壁の中が地獄になるとはどういう意味なのか。まだまだ見えていないことが多すぎますね。

レイス卿の話を聞いたケニーは「それじゃつまんねえんだよ」とつぶやくと、こつこつと鎖につながれているエレンのところに階段を上って行きます。「何をするつもりだ」というレイス卿にケニーは、「もう邪魔しねえよ。ただしよーいどんでだ。」といってエレンの口の猿ぐつわを外します。

ケニーは、エレンとヒストリアをお互い巨人にさせて殺し合わせようというのです。そして、エレンの額に深い傷を付け、巨人化させようというのでした。「寿命が尽きるまで息してろって?それが行きていると言えるのか?」ケニーは開き直り、少しでも状況を混乱させてやろう、という愉快犯的な感じになっています。

慌てたレイス卿はヒストリアにいいます。「この注射なら強力な巨人になれる。最も戦いに向いた巨人を選んだ。巨人になれば制御はきかないが、エレンが拘束されている今ならまだ望みはある」と。

・・・・・・いろんな注射があるんですね。

そして、その種類によって巨人の種類も決まる。最も戦いに向いた巨人とは、どんな巨人でしょうか。

女型の巨人、鎧の巨人、猿巨人…

猿巨人だったら怖いですね…ヒストリアが…

超大型巨人だったら洞窟全体が破壊されそうだし。

「さあ急げ!食うと言っても正確には彼の背骨を噛み砕き、脊髄液を体内に入れればいいのだ」とレイス卿はいいます。

脊髄液…

巨人の弱点がうなじにあり、また巨人化したときに人間がそこにいる、ということと何か関係があるのでしょうか。

ヒストリアは注射しようとしますが、ふと気がつきます。

エレンが巨人化しないのです。

「エレン、なんで巨人化しないの?私が巨人化したら、食べられるんだよ…そのままだと」

エレンは泣いていました。

額からの血と混じって、血の涙です。

エレンは絶望していたのですね。「いらなかったんだよ、オレもオレの親父も。オレと親父が巨人の力をあるべき所から盗んだせいで一体どれだけの人が死んだ…オレは償いきれない」

え、エレン、そんな事言っちゃうのか!

「いらなかったんだよ。あの訓練の日々も。壁の外への夢も。オレはいらなかったんだ」

「真実」を知って、その衝撃のあまり、自分を全否定してしまうエレン。

いや、それはない、それはダメだよ、と思ってしまいます。それだけの衝撃があり、「正当な継承者」であるべきヒストリアを前にして、「簒奪者」の負い目があって。エレンは完全にレイス卿のペースに巻き込まれていますよね。

騙されやすいと言うか何というか…せめてここでケニーくらいの図々しさを見せてもらいたいのですが…でもそんなことは出来ないか…

一方のヒストリア。そんな、訓練兵団からの3年間と、調査兵団に入ってからの日々を、一緒に過ごしてきたヒストリアだからこそ、エレンの絶望をより深く感じてしまう。

そして、エレンは、聖女「クリスタ」ではなくありのままの「ヒストリア」を理解してくれる唯一の存在でもあったわけです。

ヒストリアの脳裏に、母親に甘えようとして突き飛ばされた、自分を全否定されたときの記憶が浮かびます。自分を全否定せざるを得ないエレンに、またそこで深く思い入れをしてしまったのでしょう。

(最初の更新のとき、フリーダが去る場面の記憶だと思ってしまいました。ご指摘を受けて、修正します。)

エレンはいいます。「だからせめて、お前の手で終わらせてくれ。ヒストリア、オレを食って、人類を救ってくれ。後は任せた」と。

ケニーはちょっと頭を抱えているようです。

素直で感動的だけど、ここは素直になってはいかんだろう。

「エレン…あのときは、私のことを普通の奴だって言ってくれてうれしかったよ」

ヒストリアはそういって、決意に満ちた表情で自分のヒジの近くに注射を突き刺します。

この腕の肉感。涙を流し決意に満ちた表情。優しい女神クリスタではなく、戦いの女神アルテミスのような感じです。

エレンとヒストリアの関係はどこまで言っても友情、というか兵団の中でも非常に特殊な位置にいる二人ということで、その連帯感のようなもの、絆のようなものは強いものがあったと思います。

ホント、ここに来てヒストリアのヒロイン度が急激にアップしてきました。

作者の諫山さんがブログでクリスタのモデルは新人賞を取った作品での主人公だったと言っていますが、そういうキャラクターであるということは、諫山さん自身に取っても重要度の高いキャラクターだったと言うことなのだろうなと思います。

しかしミカサの立場は。(笑)

とはいえ、ミカサのバックグラウンドの部分が、ストーリー上ずいぶん補強されてきていますけどね。アッカーマン家であり東洋人の血を引く、二重の王政への反逆者としてのミカサ。そのことがストーリーにどう絡んでくるか。

ミカサなら、レイス卿の言葉に惑わされないと思うんですよね!

「エレン命」なだけでなく、その判断力からも。

アッカーマン家の生き残りの三人がここで顔をあわせることにどんな意味があるのか。

この場面、まだまだ終わらないと思います。

リヴァイ班が洞窟の中を進む中、閃光が走ります。これは、巨人化の閃光だ、と誰もが思いますね。この見開きの洞窟の場面がすごいかっこいいです。リヴァイ、ミカサ、サシャ、コニー、ジャン。

アルミンが、ハンジの介抱のためにここにいないのは、展開上すごく意味を持って来る気がします。

リヴァイは「クソッ」とつぶやきます。間に合わなかったか、と。ミカサの表情が絶望に。やあ、なんだかんだ言って諫山さん、安定はしてないけどミカサの絵が一番いいなと思います。この表情もすごく好きです。何度も経験した絶望なのだけど、そうやって成長してきた跡が感じられる、そういう絶望の表情なのですね。

そして現れた巨人は一体…

「絶望が巨大化し求めた自由は潰える…」

それがアオリです。ということは、編集の川窪さんが入れたことばですよね。

とにかく今は、エレンにはミカサが必要なんだと思います。絶望から立ち直らなければいけない。多くの人は死んでしまったけれども、でもまだエレンには残された人がいる。そういう思いを、エレンには持ってもらいたいのですが、まあそこが「One Piece」のルフィとは違う所だとも言えますが。

いやあ、堪能しました。

それにしても、謎が解決して行けば行くほど謎が深まる、と言うストーリーは相変わらずすごいなと思います。ネットでまとめサイトなどを読んでも、今回は神回だ、という評がかなり高いですね。

特にエレンの絶望の表情とセリフの評判がいいようです。

私は納得しませんけどね!(笑)

私はヒストリアの前腕の方がいいです。(笑)

来月号は、単行本16巻の〆の回になりますから、ある種の区切りがつくという予想がネットでは専らなのですが、どうでしょうか。

このまま一気にラストになだれ込んで行く気もしますが、でも「全部で20巻くらい」という話ですので、まだもういくつか波瀾は起きるでしょうね。まだ明らかにされてないこと、新たな謎もたくさんありますし。

クーデターが成功し、謎が明らかになり、少しは明るい見通しが出てきたかと思ったらこれ(エレンの絶望)ですから、全く諫山さんの読者を少し持ち上げては地面に叩き付ける技術の冴えは健在です。(笑)

来月も楽しみですね!(全く…笑)