シドニアの騎士(11) (アフタヌーンKC)/講談社

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弐瓶勉さんの『シドニアの騎士』第51話「遭難者の救出」を読みました!11巻の表紙は皮膚が硬化した状態の市ヶ谷テルルです。

惑星セブンの海上を漂う市ヶ谷テルル。ちなみに惑星セブンというと、「セブンの太陽」という加納一朗さんの少年向けSFを思い出します。弐瓶さんもこの小説を読んでいるのかな、とふと思いました。

セブン上空まで来た谷風、イザナ、ヒ山の輸送船。通信がテルルとつながります。テルルは左手からにゅっと伸びた胃カメラのようなカメラで自分を映し、イザナにおくります。船はガウナにバラバラにされ、ヘイグス機関は残っていない、と言います。「良かった、ガウナはヘイグス機関に反応するんだ」と言うイザナにテルルは、「何を言ってるんですか?あなた方は基地の方ではありませんね」と不審を見せます。

衛星はガウナに破壊され、そこには大衆合船があり、植民者で消息がつかめたのはあなただけだ、とヒ山はいい、テルルは「武装していない私たちがどうして…」と非武装主義者、つまりこれは現代の日本の左翼非武装中立主義のカリカチュアなのですが、の思想を表明します。ヒ山に「市ヶ谷さん今までよく頑張ったわね」と言われて「みんな…かわいそう…」と言うテルルは、なんかよくある運動に参加している女の子みたいな感じです。

イザナがテルルにこれから降下艇を降ろす、と言う通信をおくると、テルルはそこに映った谷風長道(ナガテ)の姿を見て顔色を変えます。テルルは「谷風長道。ガウナを呼び寄せた悪魔!」とテルルは叫ぶのです。「またあなたなの!なぜ私たちを放っておいてくれないんですか!あなたが地下から現れてすぐ平和だったシドニアに再びガウナが襲いかかって来た」と言いがかりのようなことを言い出し、谷風たちはあっけにとられます。まあそういう言いがかりのようなことを言うのは運動家によくあることですから、この辺はそういうのにうんざりした弐瓶さんの気持ちが表れているのだと思います。

「私たちがシドニアをおりた理由は武器を捨てたかっただけじゃなくあなたから逃げるためでもあったのよ!」ともう完全に「谷風がガウナを呼び寄せた教」の信仰表明をしています。もともと非武装主義者と言うのは「武器を捨てて敵意を示さなければガウナは襲って来ない」という憲法九条信仰のパロディ的な存在ですので、それがもっとわけわかなことを言い出した、と言うことなのですね。まあすぐに誰かを悪魔化するのも彼らの特徴であるわけですが。

谷風が先発隊の船に近づいたガウナを殺したのは、シドニアがガウナの注意を非武装主義者に向けようとしているからだ、と主張し、私たちはただ静かに暮らしたいだけだったのに基地が狙われたのも谷風のせいだ、ともう全然話にならない感じになってしまいます。谷風はぼーっと不思議な顔をして聞いているだけです。イザナが一生懸命「ガウナはへイグス粒子に反応するんだ」、と説明しても聞く耳を持ちません。

シドニアの司令室で司令補の緑川纈(ゆはた)と整備主任の佐々木、それに室員の女の子が聞いていますが、三人とも呆れてしまっています。佐々木は「製造者の意思が反映されてる。人工生命体は人間より頭が固いから厄介だ」といい、纈はもうもっと突き放して「降下艇を投下してその後は好きにしてもらえばいい」といいます。そうするしかないと判断した三人はセブンの衛星軌道に突入します。

一方市ヶ谷テルルは父=製造者市ヶ谷太郎の言葉を思い出し、あいつらは嘘つきだから、生き残った人がいるかもしれないから、ヘイグス通信で生き残っている仲間に連絡を取ろうとします。ヘイグス通信を受信したイザナはやめさせようとしますがすでに遅く、現れたガウナの触手に通信機を握っていたテルルの左腕はもぎ取られてしまいます。

それを関知したゆはたは司令室から「いますぐセブンから離脱して!」と言いますが、長道は逆に継衛に乗り込み、無人降下艇ではもう救出できないから、ハッチを開けてくれ、と言います。イザナが「そんなことで斬るわけないじゃないか!」」というのも聞かず、谷風は無理矢理ハッチを開けて継衛で出撃します。何とか長道を援護しようとするイザナとヒ山。しかしガウナに破壊されたセブンの衛星の破片が邪魔をして、ガウナの上空に行けなくなってしまっています。するとヒ山も一五式衛人に乗って出撃し、破片を片付けに行くのでした。それを仄姉妹たちとつむぎ、サマリが見守っています。このあたり、ヒ山は斎藤ヒロキとともに戦った頃を思い出しているのかな、と思いました。

テルルは父との話を思い出しています。ガウナは人間、特に武器を持った人間に反応するから、武器=カビを捨てればガウナは反応しない、という話を聞かされています。テルルは機械だから(人間ではないから)反応されないし、武器も持ってないから大丈夫だ、と言う父の話。もし気がつかれたら、目を持ったガウナならじっとテルルを観察するかもね、と父は軽口を叩きます。

機械で武器を持たないから教われないはずのガウナに自分は襲われている。そして大きな目でじっと自分を見ている、と言う現実に直面し、テルルは「ガウナが狙うのはヘイグス粒子を使うものなのだ」と言う事実を認めます。

カビを装備していない継衛に乗ったナガテは一時的にガウナの動きを止めるため、精密な座標をイザナにおくってもらい、弾頭を地上に放って減速すると、弾道を主導で修正し、ガウナに斜め上から弾を撃ち込みます。海面に平行に滑空しフローターを作動させて海に浮いた継衛。谷風は操縦席のハッチを開けてテルルに手を伸ばし、「つかまって!」と言います。描写していて思いましたが、これで惚れなければおかしいですね。(笑)天然でかっこいいのが谷風だなあと思います。

いわれるままハッチに入ったテルル。しかし宇宙に戻ろうとした二人の前に、エナを再生させたガウナが立ちはだかるのでした。

このくだりは最初読んだとき、テルルの谷風に対する根拠のない言いがかりを読んでいるのがリアルに腹立たしくて読み飛ばしてしまったところがあるのですが、きちんと読んでみるとすごく批評的で、面白いなあと思いました。谷風に手を伸ばされたときのテルルの顔が、もうすでに何か変わり始めていて、いいなあと思いました。微妙なところまで読まないと、味わい尽くせない漫画だなあと思います。(笑)