唇をかみしめて | ゴロゴロ実話セブン

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なにを捜すわけでなく、

現場事務所での私の机は下足箱の後ろにある。

受付の役割もはたしていて、取次屋と呼ばれている(自分から)。

事務員の女性3人は中央に陣取って、古株のお姐さんM(46歳)が警察官の娘(20歳)をよく泣かせている。

口うるさいM(西田敏行似)は残業中、事務椅子の鉄軸を押しつぶして、仰向けに引っくり返った。
が、何事もなかったかのようにすっくと立ち上がり替わりのパイプイスと取り換えた。

笑うに笑えない事件だった。

おこるべくして起こったが、人殺しの次ぐらいに悪いことが起こった。


その時偶然副所長が通りかかり、Mさんの集中荷重に椅子の長期耐力が耐えられなかったのね、と云った。
ここで笑えばすべてを失う。
血が出るほど唇をかみしめた。

神田うのかビルゲイツでもこの世はそうはのびのび生きられない。

胃に穴を開け、取引先の応接室で倒れて救急車を呼んだり、安定剤を飲んだりして生きて行くのは才も徳もない人なら当然である。

「道に倒れて誰かの名を呼び続けたことがありますか。」
と問うた中島さんのように、倒れるまで働くしかない。
しかも謙虚に。
太った事務員が椅子を壊したからと言って、あからさまに笑うなどという不道徳なことは許されない。