『デカメロン (中)』 第五日 | 手当たり次第の本棚

『デカメロン (中)』 第五日


第四日目のテーマが、それまでとは一転して悲恋を扱い、読者としては良い転換点になっているという話は前回、述べた。
しかし、ペスト禍という背景から、やはり登場人物たちにはそのテーマが不評であったとされ、第五日のテーマは、不幸な目にあった恋人たちが最後に幸福な結ばれ方をする、というものだ。
前にも、大変な不運にあった人が、最後に幸福になる物語がテーマになっているが、今回は、そこを、恋愛に限定しているわけで、ちょっと色合いが変わってくる。

さて、ここにきて思うのは、イタリアがまさしく半島国家であるなあ、という事だ。
いや、もちろん、国家といっても、ここではイタリア統一はなされていないのだけれど。
半島であるからには、付近に島々もたくさんある。
都市がそれぞれ独立した国家であるのと同じく、島もだいたい、独立した国家だ。
主なものでも、キプロス、シチリア、サルディニア、コルシカ、クレタ、などなど。

周囲の賛同を得られない恋人たちは、やはり駆け落ちをする事になるわけで、その場合、どこぞの島へというパターンが多く見られる。
たとえば、港町から船出をして、キプロスなり、クレタなりへ向かうのだ。
あるいは、海をこえて嫁入りする恋人を、船を仕立て、途中で略奪するのだ。
面白いことに、陸上での花嫁略奪は物語の中には見られない。
(島の上でという物語を除いて)。

また、物語の中には、島育ちの女性であるため、女性であっても、舟の操りかたをよく知っている、と述べているものもある。
島の生活が豊かではないらしいことから、これは当然、島の女性も、舟を使って日々の労働にいそしんでいたであろうことを示唆していて、大は海運から、小は沿岸漁業まで、デカメロンの物語はとても海となじみ深い。

さて、第四日の物語のうちに、いささか(日本人にとって)残酷なシーンが出てきたと思うむきには、第五日は安心して読んでもらえるはず。
どれほど不幸な目にあったとしても、五日目のテーマによって、彼らが最後には幸福になる事が保証されているわけで、死ぬような目にあったとしても、死なない事がわかっているのだから。


デカメロン〈中〉 (ちくま文庫)/G. ボッカッチ
1987年12月1日初版