『デカメロン (上)』 第二日 | 手当たり次第の本棚

『デカメロン (上)』 第二日


デカメロン、二日目の物語からは、登場人物のひとりの提案により、テーマが設けられる事となった。
二日目については、非常に不幸な目にあった人が、最後には報われて、より幸せな(または富んだ)結末を迎えるというものだ。

これは少し興味深い事だ。
つまり、彼らはペスト禍という大いなる不幸から郊外に逃れてきたという事になっている。
たとえそれがどのように美しい別荘であろうとも、避難している身が幸せであろうはずはない。
この時代でも、疫病からの隔離という考え方はあったようだ。
(もっとも、そもそも旧約聖書の中に、一部の疾病を患っている人と、健康な人は、感染を避けるために、定められた期間、接触をもってはならないと既に記されている)。
しかし、戦争における籠城のごとく、それはきっと、気の抜けないものであったに相違ない。

このような不安や不幸の影におののいているのであれば、その心を慰めるために、主人公がいわれのない不幸を味わっていたとしても、最後はその不幸が訪れるより前より幸せになるのだという物語が、大いに慰めになっただろう。

さて、面白いことに、この第二日の物語には、イタリア民話で語られているものと共通の物語が含まれていた。
ボッカチオが民話から採集して再話したのか、逆に、デカメロンがあまりにも有名になったため、逆に、後の世で民話に取り入れられたのかはわからないが、面白い事だ。
まあ、他の国の民話にも同型のものがあるようだという事を考えると、再話したという方が、理にかなっているかもしれない。
だとするなら、イタリアの民話は、一部であるとしても、当代の文学者の手で、美しく再話されているという事になる。
興味のあるむきには、岩波文庫の『イタリア民話集』と読み比べてみたら、いいかもしれない。


デカメロン〈上〉 (ちくま文庫)/G. ボッカッチョ
1987年10月27日初版