『ストームクイーン』〈ダーコーヴァ年代記〉 | 手当たり次第の本棚

『ストームクイーン』〈ダーコーヴァ年代記〉

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マリオン・ジマー・ブラッドリーの代表作ともいえる、ダーコーヴァ年代記に含まれる作品のうち、最も悲劇的な展開となるのが、この『ストームクイーン』ではないだろうか。
どちらかといえばフェミニスト的な作家である彼女の作品では、男性優位社会において、少女が苦闘しつつも、伝統的な「女性の役割」に縛られることなく、自らの道を見出していくというストーリーとなる事が多い。
しかし、本作では、「男の役割はこれ」、「女の役割はこれ」と慣習的に定められた社会において、その枠にはまりきらない若い男女が、ともに、犠牲となって苦しむ事になるからだ。
それは、権力というものに伴うプライドと傲慢さが生み出す悲劇となるわけだ。

つまり、この物語は、人の成長を描くことよりも、むしろ、権力にふりまわされる人間模様が前面に出ているという、珍しい作品という事になる。

さて、シリーズそのものは、本来、銀河に人類が広がっていく初期段階で、もともとの目的地にたどりつく事ができず、見知らぬ惑星に不時着して地球からは消息が知れなくなった入植地、ダーコーヴァを舞台としている。
この惑星には、人類の到来以前から、数種類の知的生命体が棲息しており、かつ、特殊な惑星風土により、ここで暮らさざるを得なくなった人類は、いやおうなく、一種の超能力をそなえる事となった。
しかも、永らく銀河の人類文明から気離反されていたため、ダーコーヴァ独自の文明を新たに発達させていったという履歴を持つ。
この社会が、あらためて人類文明と再接触するという文化的衝撃が、もともと作者の意図したドラマのベースなのだ。

それゆえ、ダーコーヴァの入植者が再発展させてきた文明の歴史については、凡百の疑似ファンタジイとなる事を避けるため、作者はタッチするつもりがなかったのだそうだ。
しかし、おそらくは、作者の予想以上にダーコーヴァに人気が出てしまったため、ファン心理として、
「昔の(人類が自分の出自を忘れていた戦乱時代の)ダーコーヴァについても知りたい」
という要望が、強くなってしまったんだね。

その要望にこたえる形であるために、いつもとは違う、変則的な展開をしているのかもしれない。

とはいえ、この戦乱の時代については、まず、本作があり、続いて『ホークミストレス』が続き、次いで『キルガードの狼』が控え、いかにしてダーコーヴァの「コミン」(超能力を持つ貴族階級)が形成され、超能力(ラランと呼ばれる)の使用に関する規則が設立されていったのかという歴史をたどる事ができるのだ。
こうした、歴史的な経緯をつかむためには、前述のような順番で三つの作品を読むのが良いように思われる。

登場する人物も、三つの作品がそれぞれ、少しずつ時代を違えているとはいえ、「過去にあったこと」として言及されていくため、微妙ながら、相互につながりがある作品にもなっているのだ。、


ストームクイーン〈上〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)/マリオン・ジマー ブラッドリー
ストームクイーン〈下〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)/マリオン・ジマー ブラッドリー
1988年3月18日初版