『桃太郎伝説殺人ファイル』〈ST警視庁科学特捜班〉 | 手当たり次第の本棚

『桃太郎伝説殺人ファイル』〈ST警視庁科学特捜班〉


ST第3シーズン、伝説シリーズの2巻目は、桃太郎。
絵本や童謡でおなじみのあの桃太郎さん、1巻の為朝伝説とはうってかわってメジャーどころが来たわけだが、実はこの桃太郎、卑弥呼と邪馬台国ばりに、日本全国、「うちが桃太郎の本場!」と主張するところがある、らしい。

考えてみると、これはちょっと不思議だ。
だって卑弥呼朝のような、史書に登場する、歴史上実在した人物ではないよな。
桃太郎は、あくまでも、御伽噺の登場人物のはず。
だから、桃太郎ゆかりの地なんて、あるはずがない……。

では、なんの根拠で桃太郎はうちが、となるのか?
桃太郎だから、桃が名物の。うーん、桃の名産地っていつ頃から?
黍団子を使うから、吉備の国。
むむ。しかし、黍って吉備の国以外でも作っていたのでは?

しかし、もう一つ大きな根拠がある、と「吉備の国」は主張する。
それは、鬼に由来する史蹟が残っている事だ。
桃太郎とか鬼に興味のある人なら、比較的知ってる確率が高いんじゃないかと思うが、ここには、温羅という名前の鬼に関する伝説があって、この鬼が、桃太郎と対決したあのの医だと言われているのだ。

さて、エキセントリックなSTのメンバーがアプローチするのだから、切り口はいろいろな「科学的」見地から、という事になるのだが、謎解きそのものは、伝説の正体に大きく絡んでいく形となっている。
舞台が今回は吉備の国、すなわち岡山県なので、あくまでも岡山県での桃太郎という事になるが、
桃太郎とはいったい何者なのか?
温羅とは何者だったのか?

うん、温羅が「桃太郎の鬼」であるなら、当然、温羅を征伐した人が桃太郎。
ちょっと逆算っぽいけど、そうなる寸法だ。
温羅が渡来人であるという話、朝廷と地方との対立、その大きな原因である採鉱権。
「伝説」についてそう解き明かしながら、それがどのように、現代に発生した犯罪とつなげるのかは、作者の腕の見せ所だろうが、STというシリーズが、どういう性質を持っているかを考えると、こういった「伝説」に絡んだ時、彼らの特技はあくまでも小道具になってしまい、いまひとつクローズアップされにくいような気がする。
もちろん、物語としては面白いし、一気に読めてしまうのだが、その点は、シリーズを通して読んだ時、ちょっと残念だ。


ST桃太郎伝説殺人ファイル (講談社ノベルス)/今野 敏
2007年12月6日初版