『銀河乞食軍団 (1) 謎の故郷消失事件』
ハミルトンの〈キャプテン・フューチャー〉をはじめ、名だたるスペオペのほとんどを日本に紹介し続けてきた、野田昌弘。
その人が抱いていた夢のひとつは、日本初のスペオペを世に送り出す事だったのだという。
残念ながらその夢は、高千穂遙の〈クラッシャー・ジョウ〉によってあえなく破れてしまったのだが(そういや高千穂遙は、日本初のヒロイック・ファンタジイを世に送り出すという栗本薫の夢も、〈魔獣ハリディール〉によってさえぎっている!)、私は、断言しよう。
真に日本的なスペオペを書いた最初の人は、やはり、野田昌弘なのだと。
それが、この〈銀河乞食軍団〉なのだ。
厳密に言えば、その世界観の一部は、先に、映画『宇宙からのメッセージ』のノヴェライズに、翻案して使われている。
そのあたりの、やむを得ないツラ~イ事情は、いろいろあったらしいのだが(文庫版第1巻の作者あとがきに詳しい)、まあ、こちらは翻案なので……。
とはいえ、野田昌弘による、翻訳ではないオリジナルのスペオペが、「面白い!」と感じたのは、そのノヴェライズであるのだけれども。
さて、どこらへんが、日本のスペオペなのだろうか。
本来、スペースオペラという言葉は、「宇宙を舞台にした西部劇」という意味の悪口として、ホースオペラをスペースオペラと言い換えたものだ、と言われている。
つまり、アメリカ人にとっては、スペオペの基本精神って西部劇なのだ。
孤高のヒーローが、時には僅かな仲間とともに、未知の荒野である異星世界での冒険に飛び出すという物語だ。
あるいはその荒野で、悪と戦う正義のヒーローになるのだ。
そこにあるのは、個人の自由を尊重する世界であり、荒々しいフロンティアの精神でもあるだろう。
では、本作は?
時代劇ならぬ、宇宙劇だろう、というのが私の印象だ。
そこには、未知の荒野はない。
遠い遠い時間と空間のどこかで……今日も展開されている、下町の物語なのだ。
ゆえに、我々の目から見て、いかに凄い技術であろうと、それらは、登場人物にとってなにげない日常。
電車のかわりに磁發鉄道(リニアですかね)があり、海をいく船のかわりに宇宙戦が星系間を行き来し、港のかわりに宇宙港があるのならば、人工島の錨地は、軌道上の小惑星をつなげた錨地だ。
そこへもってきて、たとえば星系や惑星などの名前は、漢字表記。
たとえば主役の銀河乞食軍団こと星海企業の本拠地があるのは、星涯(ほしのはて)星系の惑星白沙(しろきすな)、という具合。
先に磁發鉄道という用語を出したけれども、これに代表されるとおり、用語も、漢字表記寄りだ。
人名も、西洋名と日本名が混在している。
銀河乞食軍団の頭目がジェリコ・ムックホッファであり、副頭目が熊倉松五郎である、というように。
だからといって、ジェリコが白人で松五郎が東洋人、というような区別は一切出て来ないのだ。
この混淆ぶりも、ある意味、日本そのものと言えるのかもしれない。
そんなキャラクターが、職人気質と義理人情を両手の武器にして、独立独歩、宇宙という名の「世間」を渡り、不思議な事件に協力して立ち向かっていくというのがこの物語というわけ。
発動! タンポポ村救出作戦 (銀河乞食軍団 合本版1)/野田 昌宏
2009年6月25日合本版(1~6巻)
『謎の故郷消失事件』1982年6月30日初版(文庫第1巻)