『機動戦士ガンダムUC (7) 黒いユニコーン』 | 手当たり次第の本棚

『機動戦士ガンダムUC (7) 黒いユニコーン』

この世界で最も凶暴な生物とは、ヒトである。
ロンドン動物園にはそういう表示とともに鏡がかけてあったというが、これは実話かどうか知らない。
しかし、それをタイトルに利用したイギリスの冒険小説家がいて、確かに、それはユーモアの枠をこえて、納得させられてしまうような、冷たい恐怖を感じる真実では、ある。

たとえばの話、超能力だろうがなんだろうが、何かしら、衆に優れた能力を持つ人というのは常に存在するのだけれども、真実怖ろしいのは、その人自身ではなく、彼等を何かに利用しようとする側の人、あるいはシステムであろうと思う。
思えば、ガンダムという世界は、常にそれをテーマにしている。
すなわち、ニュータイプであり、
それに類似あるいは対抗しようとして作られた強化人間であり、
当然、「ガンダム」もそのひとつ。

従って、今回のエピソードで最も怖ろしいのは、ものごとを操ろうとするマーサという女なのだが、奇しくも、物語は、マーサとミネバの対立という図式を打ち出していて、彼女らが素で対決するシーンは、ちょっと泥臭くはあるが、重要だろう。
人の凶暴性、あるいは凶悪さを体現していくかのようなマーサの言動を、ミネバはどう評価し、どう対していくのか。
しかし、ミネバ自身、まだ若く、どう対抗していくのかを模作している状態で、彼女の成長していく段階は、間違いなく、主人公であるバナージの成長と対をなす軸となっていくのだろう。
そう、本巻に関して言えば、主人公はミネバと言ってもいい。

そしてもうひとり、マリーダの存在も注目しなければならない。
利用される側の代表ともいえる彼女が暴走に至る過程、そしてそこから救出できるのかどうかというのが、重要なエピソードになっているから。
とはいえ、ジンネマンと彼女の結びつきがどう変わるかは、今後の事になりそうなのだけれども、マーサとミネバの対立の中、主人公とその乗機であるガンダムを抑える手駒として登場する黒いユニコーン、そしてマリーダの存在は、マーサVSミネバの代理闘争のようなものだ。
一見、アルベルトとジンネマンの対決お呼びその差と見せながら、実際には、マリーダを引き裂いているのは、マーサの論理とミネバの論理とも言える。

物語全体としても、いよいよ、ガンダムは連邦、ネオ・ジオン、いずれの勢力にも与しない、逸脱した存在として明確なポジションを占めるようになった。
これは、ガンダムというものが誕生してからずっと変わらないポジションではあるけれど、シリーズに作品を重ねられるごとに、より強く打ち出されていっていると思う。
ガンダムとは(その物語の)時代における象徴とならざるを得ない。
それは、闘争の物語を通じて、作品が何を語りたいのか、というテーマそのものでもある。
今回はアニメや漫画が先行する事のない、小説オリジナルの物語、しかも書き手が書き手であるから、いったいガンダムUCを通して作者が何を主張したいのか、見えてくるのはこれから……と考えられるだろう。

いや、ミネバの凛々しさや、マリーダの悲愴に思いを馳せるのみでも、それはそれで良いと思うのだけれど。


機動戦士ガンダムUC (7) 黒いユニコーン (角川コミックスエース)/福井 晴敏
2008年12月26日初版