『ガンマンの伝説』 | 手当たり次第の本棚

『ガンマンの伝説』

日本では、ウェスタンがあまり受けないのだそうだ。
まあ、確かに……。
和製のものというと、メジャーどころでは漫画で松本零士が描いているくらいかもしれないし、あとはライトノベルでいくらかある、それくらいか。

それも道理で、いかに魅力を感じる人がいようとも、所詮、ウェスタンの文化というのは「異文化」であり、日本人が自家薬籠中のものにできるかというと、疑問だ。
なんつっても、背景の生活空間がまるっきり違うし!
一例を挙げるなら、日本では、ぐるりと見える地平線なんて、まずのぞめない。

それでも、ある程度知られているガンマンの名前がいくつかある。
そのひとつが、ワイアット・アープであり、ドク・ホリディ。
映画で有名な『OK牧場の決闘』の、彼等のことだ。

そうそう、映画が名作だから、映画の中の彼等がともかく有名で、彼等が実在の人物だったと知識として知ってはいても、映画の話がほんとのように思えてしまう。
なんといっても、あの映画はかっこいいからなあ……!
しかし、「それだけに」、そこにはかなりの虚構が盛り込まれている。
ならば、その虚構はどこからどこまで?

いやいや、本書は、確かにワイアット・アープはじめ、アープ兄弟の事を描いているが、べつだん、真実暴露小説というわけではないのだ。
ハードボイルドの巨匠の一人、パーカーが、それこそ、余計な虚飾を交えずに、淡々とアープ兄弟の全盛期を描く。
とうぜん、それは、彼等のトゥームストーン時代の物語だ。

従って、有名な「対決」についても詳しく描かれていくのだけれど、
フィルムの長さが決まっている映画では描ききれない、「対決」の背景にあるものが、非常に複雑である事に驚かされる。
単なる私怨だけではない。
町のものと、カウボーイたち。
土地のものと、よそもの。
共和党と、民主党。
そう、そんな政治的な要素までも、実はたっぷりとからんでいたのだという。

そしてまた、対立あるところには、人間の絆というものも、ある。
もろいものも、強いものも。
男と女。
あるいは、友情。
状況から、否応なく敵味方に分かれるものもあれば、裏切りをはたらくもの、生涯をともに過ごすもの……。
そこに描かれる、負の感情をも含めた「人の情」は、淡々と書きつづられているからこそ、じわりと沁みてくるかのようだ。




ガンマンの伝説 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 1-48)/ロバート B.パーカー
2008年10月15日初版