『神託の夢』〈ドラル国戦史3〉 | 手当たり次第の本棚

『神託の夢』〈ドラル国戦史3〉

今回メインの舞台となるのは、ヴェルダンの支配する農業国。
といっても、宗教組織もなければこれといった政体もない、農民が農民らしく自治をしている土地という事で、ある意味、〈ベルガリアード〉の主人公ガリオンが育ったところを、もっと過激にしたような(いや、もっと温順にしたようなと言った方が良いのか?)、そういうところだ。

そういや、どちらのシリーズも、農民は好戦的ではないが実際的かつ合理的だし、
船乗りは豪放磊落、でかくて毛むくじゃらで気の良い海賊だったりするな。
プロの兵士であるナラサンたちや、生まれながらの狩人である長弓が悪いキャラというのでは全くないが(いやいや魅力的だが)、
どうもやはり、エディングス夫妻は、農夫と水夫がことのほかお好きであるようだ。

彼らのいだく、理想的アメリカ人像なのだろうか。
もしかすると。

さて、本巻は今までとやや様相が異なり、狡猾で卑劣な元神官ジャルカンと、
名誉の人であるナラサン司令官、
そして鷲鼻ソーガンのいとこ、スケル、
さらにヴェルダンと親しい農夫の先達、オマーゴ。
この4人の半生が、それぞれに章をあてて語られている。

彼らの半生を語る事で、まず、トログ国の政情が明らかになり、
ヴェルダンの国でその派生勢力を迎え撃つ事になるスケルとオマーゴの人となりがわかってくるというわけだ。
なんかとっても、微妙にヘンなところで、ジャルカンとナラサンは、仇敵のような関係である事も判明するが、これは彼らの人格によるところもあり、かつ、トログの政治に深く関係していたりもする。
このあたりは、次巻以降の展開につながる「伏線はりまくり~」にも見えるんだけど、まあそれはそれで、おのおの楽しめるので良いか。

一方、子供の姿をとっている夢見人たちは、老いつつある現役の神々の目をかすめて、自分たちの真の姿に覚醒しようとしている。
ある人物が、とんでもない正体を持っているらしき示唆もあり、こちらも、非常に思わせぶりな感じ。

それにしても、1巻まるまるかけて、どの方面もじらされている感じがするのは、いかがなものか(笑)。


神託の夢 (ハヤカワ文庫 FT エ 1-52 ドラル国戦史 3) (ハヤカワ文庫 FT エ 1-52 ドラル国戦史 3)/デイヴィッド・エディングス
2008年3月25日初版