『赤死病の館の殺人』 | 手当たり次第の本棚

『赤死病の館の殺人』

赤死病……!
この言葉に魅惑を感じてしまう人は、ポーが好きな人だろう。
ホラーというより、「怪奇もの」と言うほうがぴったりとくる、赤死病の仮面の話は、ストーリーや細部はたとえ忘れていたとしても、一色に統一された部屋の羅列と、唐突ですらあるラストのインパクトが、読者に強い印象を残す。

しかし、なぜかその強いイメージは、強すぎるせいなのか、細部はよほどのファン、ていうか、マニアでもないと、覚えていないもののようだ(笑)。

その「死角」を突いた本作は、本来架空のものであるはずの赤死病をもうまく現出させ、非常にうまいつくりの物語になっている。
芦辺拓というと、パスティーシュがうまい作家でもあるが、元ネタのモチーフを二重、三重に用いるやりかたは、それ以外の要素の投入もあって、「コラージュの名手」と呼んだ方が、むしろふさわしいのかもしれない。

これ、少女漫画にもなっているようだが、ちょっと読んでみたい気がする。

さて、本書に同時収録されているのは、
「疾駆するジョーカー」
「深津警部の不吉な赴任」
「密室の鬼」
3本の短編となる。

どれも、それなりに面白いと思うが、個人的には、ジョーカーはわりとすぐに犯人と仕掛けがわかってしまった。
「深津警部~」の方も、トリックがなじみにくく、ラストは面白いけれども、いまひとつな感じ。
オーソドックスだが、この3本のうちでは最後の「密室の鬼」が一番面白かった。

しかし、手の込み具合といい、いうれもタイトル作の『赤死病の館の殺人』には三歩くらい譲ってしまう。(長さの問題もあるのかもしれない。赤死病は、短編というより中編)。



芦辺 拓
赤死病の館の殺人
光文社文庫
2005年4月20日初版