『クトゥルー 6』 暗黒神話大系シリーズ | 手当たり次第の本棚

『クトゥルー 6』 暗黒神話大系シリーズ

文庫版6巻は、ラヴクfラフト&ダーレスによる短編が2編と、『ビリントンの森』3部作が収録されている。
ビリントンについては、単行本版の記事ですでに触れているので、短編2つをメインに語るか。

まず、『恐怖の巣くう橋』。
ダニッチ近辺の家を遺産として受け継いだ男が、そこで暮らそうとやってくると、地元では評判がやけに悪い。
結局、すでに死んだはずの父祖に「たたられて」しまい、悲惨な結末となる。
なーんてあたりも、そこに至る展開も、典型的なクトゥルーものであり、面白いには面白いのだが、あまり新鮮みが感じられない。
なぜか、崩れた橋のどまんなかに「旧神の印」が刻まれて封印の役を果たす事になっているんだけど、事件と橋と封印の関連性は、一見明確に見えて、いまひとつ曖昧なまま終わっている。

とはいえ、特定の、ヴァンパイアハンター的存在が封印をほどこしたのではなく、どうも近在の住民が、邪悪なものを跳梁させないため、一致協力してそれをやった、という風な示唆があるところは、
「そういう、邪悪なものが徘徊する土地」
という、背景をうまく際だたせている、とも言える。

ラヴクラフトの世界を支える、脇役的な特徴のある短編とは言えそうだ。

『生きながらえるもの』は、クトゥルーものに特有の、水の生き物に対する生理的嫌悪感を打ち出した作品だが、クトゥルーものらしさは、かなり薄い。
もっとも、「不死」といものへの、ラヴクラフトの興味を、かの死体蘇生者とは別の雰囲気でネタにしているという意味では興味深くもあり、それなりに面白くもある。
しかし、本作をふくめ、どう~も、魚類と爬虫類と両棲類が、ラヴクラフトの中ではいっしょくたになっているような雰囲気が感じられる(笑)。


ラヴクラフト, ダーレス, 大滝 啓裕
クトゥルー〈6〉
青心社文庫