『名誉王トレントの決断』〈魔法の国ザンス17〉 | 手当たり次第の本棚

『名誉王トレントの決断』〈魔法の国ザンス17〉

魔法の国ザンス、いよいよの17巻は、ハーピーとゴブリンの間に生まれた娘(翼あるゴブリン)、グローハが主人公。
ザンスは、必ず、主人公が何かを探索するという物語になっているのだが、グローハは自分の結婚相手となるべき人物を探求するのが目的なので、ある意味非常に「クエスト」としてオーソドックスな仕立てだ。

しかし、作者がピアズ・アンソニイである以上、オーソドックスといえども無事ではいられないわけで(違、
ザンスの物語にアダルトなシーンを持ち込まないためのユニークな発想、「大人の陰謀」を巧みに使い、
通常の……そうだな、D&DみたいなTRPGでおなじみのモンスターの性格とは異なる(つか、正反対の?)キャラクターをキャスティングし、にやにやできるダジャレ満載の物語になっているのだ。
しかも、最初からのザンス・ファンにとってはあまりにも懐かしい、トレントやクロンビー、アイリス、ビンク、カメレオンなどがゲスト出演するとあっては、さらに「あほみたく」にやにやせざるを得ないではないか(笑)。

とくに、このクエストのため、一時的に若返ったトレントが、すんげ~面白い(笑)。
彼がマンダニアに行っていた時どんな風に暮らしていたかとか、そういう謎も今回明らかになるのだ。
また、生きた類語辞典である女悪魔メトリアも、今回は「いままでにない」活躍をする。注目だぞ!

一風変わった、ザンス版『オズの魔法使い』的物語は、主人公が若い女性である事への期待を裏切らず、ザンスの物語としては驚くほど情熱的なロマンスとして終了する。
これまた、ある意味ユニークな事かも。

ところで、ザンスというと、ダジャレの国であるだけでなく、途方もない植物がたくさん存在する国でもあり、
たとえば、できたてのいろいろな種類のパイが実る「パイの木」とか、
さまざまな色や形のクッションが実る「クッションの木」のようなものが、
それこそ全土にありふれた植物として存在していて、ザンスの人の役に立っているのだけれども、
こうしてみると、アメリカ人って、ほんとのほんとに「パイが好き」なんだね(笑)。
しかも今回は、マンダニアからザンスに移住した人のひとりが、自家製の「ポテトチップス」を提供するシーンがあり、
(マンダニアでは南仏で暮らしていたはずの)トレントが、それを
「マンダニアのとてもうまいもの」
と表現するのは、う~ん……(笑)。

アメリカ人は、パイとオニオンリングとポテトチップスとポップコーンで生きているのか?
……と、言いたくなるほどなのだ(笑)。
まあ、ザンスでは、そういう食事も、ごくごく平凡なものに思えるんだけどね。

そういえば、トレントの過去があらわになる部分では、実名こそあからさまに書かれないものの、わかる人にはわかる、世界的に有名な画家も登場する。
さあ、ここでもにやりとしよう!
……え?
画家には詳しくない?
どうしても答を知りたい人のために、いちおう、記事の末尾に白文字で書いておきます。


ピアズ アンソニイ, Piers Anthony, 山田 順子
名誉王トレントの決断―魔法の国ザンス〈17〉
ハヤカワ文庫FT
2006年9月30日初版

問題の画家はヴィンセント・ファン・ゴッホ。彼は狂気に見舞われ、また精神病の発作なども手伝ってか、自らの片耳を切り落として親友におくりつけたという有名なエピソードがある。