『百器徒然袋-雨』 | 手当たり次第の本棚

『百器徒然袋-雨』

基本的には、ダメダメ小説家関口の目を通してみる事になっている京極堂シリーズでは、榎木津という男、きわめつけの変人として描かれているのだが、こちらはその榎木津が「探偵として」活躍する中編3篇をおさめたものだ。

もちろん、榎木津の場合、探偵と言っても、いわゆる興信所の探偵とも、小説に出てくるような名探偵とも違う。
探偵=榎木津=神
という、わけわからん等式が榎木津の頭の中にある、それしか根拠のない「探偵」だったりする。
しかし、本巻は、視点が関口とは違う、全く新たな人物であるため、登場人物各々の描写も微妙に差異があるというのが、面白い。

何より面白いのは、京極堂シリーズにあっては、ワイルドカードのような扱われ方しかしない榎木津なのだが、榎木津中心の本巻では、その京極堂まで、榎木津に引っぱられて動いてしまうという図式になっている事だろうな。
そういえば、関口によると、榎木津は、京極堂(そして関口)とは、同じ学校の1年先輩なのだよな。
やはり、そこはかとなく、先輩風が吹いているのだろうか(笑)。

いずれにせよ、書斎からほとんど動こうとしない、京極堂が中心であるのと違って、
はなばなしく暴れたい榎木津を中心にまわっていく話なのだから、物語もどんどんと推進力を持っている形で、読みやすく面白いと思う。ていうか楽しい。
主人公(なぜか常に、その都度違う変名で呼ばれる事になる。本名はなんなのだ!)も、ごくごく普通の、元肉体労働者系の人という設定なので、ウシロムキな関口に語らせるより話のリズムが良い。

そういや、榎木津、鬱病の関口に比べて躁病的などと言われた事もあったが、
本巻を読むにつけても、躁病というより、爽病なのではないか?
変人には違いないのだが、活躍は爽快である。


京極 夏彦
百器徒然袋―雨