『魔法の月の血闘』〈キャプテン・フューチャー全集8〉 | 手当たり次第の本棚

『魔法の月の血闘』〈キャプテン・フューチャー全集8〉

魔法の月……。
このフレーズだけでは、まるでファンタジイのタイトルみたいだが、違う。
キャプテン・フューチャーである!
スペオペである。
では、魔法の月というのは何か?
キャプテン・フューチャーのスゴイ科学力による、月の事なのか?
いやいや。
月といっても地球のじゃあ、ない。
冥王星の第三衛星ステュクスのことだ。

ステュクス人というのは、その「想像力」を「創造力」にしてしまう、面白い衛星人なのだが、その能力によって、ステュクスは、「魔法の月」と呼ばれているわけなんだな。
ここに、富を求める者なら、誰でもほしがるダイヤモンドの鉱脈がみつかり、
機械文明を忌み嫌うステュクス人の反対を押し切って、太陽系各地からいろいろな「悪人」が集まってくる。
中でも瞠目に値するのは、ある企業家の、とんでもないアイデアだったのだ(笑)。

それはなんと、映画のロケ隊を使って、現地へ赴き、権益を(なしくずしに?)手に入れよう、というもの。
あ、いや、シンプルにまとめているので、実際にはもうちょっといろいろあるのだが。

でね、何の映画をとるか、それが笑えるのだよ。
キャプテン・フューチャーの映画をとる、というのだ。
しかも、陰謀を暴くために、キャプテン・フューチャー自身が、身元を隠して映画のキャストに応募するときては、なかなかこたえられない展開じゃないか。

映画、とくにアメリカ人と映画、なーんていえば、当然ハリウッド映画が浮かぶわけだし、あの華やかな世界と、スペオペなんていうやつは、とっても相性が良さそうなのだが、それが意外と、映画を題材にしたスペオペってないんだよなあ。
(ヘンリー・カットナーの、九惑星映画社シリーズくらい)。
そういう意味でも、これはシリーズ中の白眉といって良さそうだ。

もっとも、ステュクス人に関しては、今回大活躍する分、神秘性はいまいち薄れてしまい、その点に不満が残るのだが、どんなに神秘的な存在であっても、見慣れてしまえば日常になってしまうものなので、それはそれで仕方ないのかもな。


エドモンド・ハミルトン, 野田 昌宏
人工進化の秘密!/魔法の月の血闘<キャプテン・フューチャー全集8>
創元SF文庫


旧ハヤカワ版はこちら。
エドモンド・ハミルトン, 野田 昌宏
魔法の月の血闘
ハヤカワ文庫SF