『杖と翼 (1)』 アデル | 手当たり次第の本棚

『杖と翼 (1)』 アデル

杖と翼1 フランス革命。
それは、もちろん、近代史にギラギラと輝く、一大イベントである!

近代民主主義の原点であるのはもちろんだが、
遺憾ながら、このフランス革命は、非常に血みどろであった事でも、有名だ。
そう、あの「恐怖政治」という言葉は、フランス革命に由来していると言って良いのだ。

その立役者の一人が、サン・ジュスト。
非常な美貌と、怜悧な頭脳で、若くして議員となり……。
いや、これだけでも、
「まるで小説の主人公のような」
キャラクターだと思わないか?

しかし、フランス革命を舞台にした漫画は幾つもあれど、サン・ジュストに大きく注目した作品は、これが初めてではあるまいか。
それは、やはり、このキャラクターが、美しく賢くはあっても、その後どんどん、血にまみれていくという運命が(史実である以上)免れないからなのかもしれない。

その点、木原敏江は、
手で触れ、念じれば、瀕死の動物も鳥も、完治させてしまえるという、希有の能力を持つ少女、アデルを登場させる事で、毒を和らげる心づもりであろうかと思われる。
実際、1巻では、まだ幼いアデルと、議員になる前のサン・ジュストが出会うという物語になっていて、
ある程度フランス革命について知っている者ならば、その後の展開に、妙にドキドキしてしまうという仕掛けになっているのだ(笑)。

木原敏江は、既に、日本を舞台に『夢の碑』シリーズを世に出し、
日本史上、冷酷であったり、過酷であったりする人物を配しながら、
不思議な能力を持つ架空のキャラクターを出す事によって、物語をうまく演出し、史実の「冷酷な人」を、人間味溢れる、興味深いキャラクターとして扱う事に成功している。

それゆえ、ある意味でフランス版『夢の碑』とも思えるような、
サン・ジュストとアデルの物語は、1巻から大きく期待させるスタートを切っていると言えるわけだ。


木原 敏江
杖と翼 1 (1)