『ニルスのふしぎな旅』 | 手当たり次第の本棚

『ニルスのふしぎな旅』

むかーし、NHKがアニメにした児童文学なんだけど、私はアニメの方はほとんど知らないのだ。(でも、なぜか歌は歌えます。タケカワユキヒデだったような気がする)。

実は、この物語の一番の思い出は、
「えーっ。薔薇の実って食えるの?」
これであった(笑)。

物語の中で、ニルスがもらう食べ物に、薔薇の実というのがあるのだ。
庭に咲いている薔薇が、実をつけ、しだいにそれが黄色くなっていくのを見て、子供の頃はずいぶんと、
「食えるのか~。ほんとに食えるのかなあ」
と、思っていたものだ。でも、食べなかったのは、ニルスと違って、小さくなっていなかったからです(ほんとかよ?)。

近年、ローズヒップなんていうのがはやって、
「おおっ。ニルスのあれか!」
と心躍ったのだが、実際には、ちょっと違うものらしいね。

ことほどさように、ニルスといえば薔薇の実、というイメージが強烈に残っているのだけれども、なぜ、ニルスがそんなものを食わなければならなかったか。
それは、ニルスが、小さくなってしまったからなのだ。
それはもう、小さい。
ガチョウより、うんと小さい。
……う~ん?

ガチョウといえばヨーロッパの民話などには、しばしば出てくるけど、日本ではあまりなじみがないよね。
どれくらいの大きさだろう。
物語の中では、ガチョウがカモたちと旅をすることになるので、カモとそんなかわらない大きさと考えれば良いかな?
うん、カモならば、本州ではわりとそこらじゅうに、いるね。

そして、ニルスは「小さくなっている間だけ」、鳥や動物と、話をする事ができた。
ガチョウと一緒に、カモたちの旅に加わる、それが「ふしぎな旅」。
普通の、人間のままでは、見る事ができない大自然を、カモたちとほぼ同じ視点で、ニルスは見る事ができたわけだ。

「人間であること」と、
「両親に保護されている子供であること」
この、ふたつの立場から解放されたニルス。
(まあ、ガチョウくんが、ニルスのいわば保護者になってくれるのだけれども)。
生きていくことが、難しく、おそろしく、だからこそすばらしいのだという事が、旅の間にわかってくるわけだ。

しかし、なんといってもこの物語の面白さっていうのは、
「一瞬のうちに、主人公の視点が、強制的に変えられてしまうこと」
これなんだろうなあ。
最初は、いきなり、小人に。
最後は、いきなり、もとどおりに。
視点がかわると、世界そのものが、まるで変わってしまうのだ。

逆に考えれば、今、自分が見ている世界は、見えているだけのものではない。
実は、多様性に満ちているのだ!
子供の頃は、ニルスと一緒に、このことが一番の驚異として感じられたと思う。
カモたちの目で世界を見ることの、不思議さ。
日常、自分がよく見知っているはずのものが、いきなり、見知らぬものになってしまう不思議さ。
これが、「全くの異世界」より、もっと心を躍らせてくれるんだな。

しかし、そんな考えは大人のもの!(笑)。
これを最初に読んだ子供の頃は、やっぱり、
「ガチョウに乗って空を飛び、薔薇の実を食ってみたい」
これだったんだよね(笑)。

夏だと、この物語のシーズン(これは秋の物語です)より、ちょっと手前になってしまうのだけど、
「山野で冒険をする」
これは、夏休みが一番、良いかもな。
ハイキングなどで山に入ったら、ちょっと腰をかがめてあたりを見て、ニルスの気分になってみると、面白いかもしれないな。


著者: セルマ ラーゲルレーフ, 山室 静, 井江 栄
タイトル: ニルスのふしぎな旅