『風の十二方位』 セムリの首飾りの思い出 | 手当たり次第の本棚

『風の十二方位』 セムリの首飾りの思い出



著者: アーシュラ・K・ル・グィン, 小尾 芙佐, アーシュラ・K・ル=グウィン, Ursula K. Le Guin
タイトル: 風の十二方位

アーシュラ・K・ル=グウィンという人は、寒い世界の物語をたくさん書いていると思う。かの有名な『闇の左手』もそうだし、
『辺境の惑星』も同じ。

でも、なぜか、極寒のイメージが鮮烈なのは、この、『風の十二方位』に収録されている『セムリの首飾り』だ。
もっとも、
『ロカノンの世界』と背景を同じくするこの短編は、ウラシマ効果に翻弄された、フォマルハウトの原住種族の娘の話。

自らも富裕ではなく、今は富裕ではない首長のもとにとついだ美しいセムリは、夫が嘲笑されるのに耐えられず、家重代の家宝の首飾りを取り戻しに行くのだ。
ところがその首飾りは、宇宙空間を越えた向こうの博物館に収納されていた!
そうとは知らず、FTL(超光速)船に乗せられて、博物館を訪れ、首飾りを取り戻すセムリ。
でも、故郷に帰り着いた時には……。まさしく妖精境から帰ってきた者のように、時が流れ去ってしまっていた!

美しいセムリの見栄、夫への愛情、誇り、勇気。
それが、領地ひとつの富とも引き替えにできると歌われる、サファイアの首飾りに象徴されている。
深い青は美しい。
でも、鉱物は冷たい。
しかも、宇宙空間の冷たさに凍てついて、いやがうえにも、冷たい。

もちろん、ル=グウィンの作品としては、先にあげた『闇の左手』や、『ゲド戦記』がなんといっても有名だし、物語としても素晴らしいのだけれども、イメージということになると、これが一番、鮮烈。