【不思議の国のアリス】 それは、君がどこへ行きたいかによるわな | 本好き精神科医の死生学日記 ~ 言葉の力と生きる意味

本好き精神科医の死生学日記 ~ 言葉の力と生きる意味

「こんな苦しみに耐え、なぜ生きるのか…」必死で生きる人の悲しい眼と向き合うためには、何をどう学べばいいんだろう。言葉にできない悩みに寄りそうためにも、哲学、文学、死生学、仏教、心理学などを学び、自分自身の死生観を育んでいきます。

言葉がしゃべれる白ウサギに導かれ、不思議な国でのアリスの物語。

基本的には、多数のナンセンスな言葉遊びがメインで、

教訓的なお話しは少ないんですが、

そんな中にあって、きらりと光る名言のご紹介です。




■不思議の国のアリス ルイス・キャロル


「あのう、わたくし、ここからどの道を行けばいいか、教えていただきたいんですけど」

「それは、君がどこへ行きたいかによるわな」とネコのこたえだ。

どこだっていいんですけどーー」

「それならどの道だってかまわんだろ」

「――どこかへ辿り着きさえすればね」アリスがいいそえると、ネコはネコで、

「そりゃあ行きつけらあ。ちゃんと歩き続けて行きさえすりゃあね」


"Would you tell me, please, which way I ought to go from here?"

"That depends a good deal on where you want to get to," said the Cat.

"I don't much care where--" said Alice.

"Then it doesn't matter which way you go," said the Cat.

"--so long as I get somewhere," Alice added as an explanation.

"Oh, you're sure to do that," said the Cat, "if you only walk long enough."



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アリスはこの後、

「そんなの当然でしょ」と馬鹿にして話題を変えてしまいます。

チェシャ猫は「目的地に到着したければ、着くまで歩き続けなさい」

と言っているわけですが、この真意がアリスには分かりません。


なぜか?

アリスには、進むべき目的地が分からないからでしょうか。


自分自身のことを振り返ってみても、

何がしたいのか分からず、目的もないのに、

何かしたい、何をすればいいのか、と誰かに聞きたくなることがあります。

どの大学にいけばいいのか、先生に聞いて、

「大学に行って何がしたいの?」と尋ねられても、

「分かりません、大学に行ってから探します」

という会話は、よくある話。


どの資格をとればいいと思う?と聞かれても、

何をしたいのかが分からなければ、どの資格をとっても、

損はしないにしても、どう使えばいいのか、その資格で何をするのか、

目的が抜け落ちていると、その資格の「意味」が生まれません。


歩いて行ったらいいかな?
自転車がいいか、車がいいかな?

何処に行くの?

分からない。

なんでもいいんじゃない・・・。


アリスとチェシャ猫の会話は、こんなおかしなやりとりなのに、

我が事として振り返ってみると、意外とありがちな気がして耳が痛いです。


目的なき手段は、手段に非ず。

こと、「生きる」ことにおいては、

「生きる目的」が分からなくても

「どっちにしろ生きていかなければならないから」、

という言い訳を自分にし続けて、目的が分からないまま時を過ごしがちです。

「幸せになりたい」と思いながらも、

「じゃあ、その「幸せ」って何?」

と突っ込まれると、自分の曖昧さが透けて見えてきます。

「平穏な家庭」なら、その平穏って?

「社会的な成功」なら、何がどこまで行けば成功なのか?

とか。


幸せな人生、と胸を張れる「道」は、どこにあるんだろう。


限りなき欲望を満たすことが幸せならば、

限りある命を持つ人間には達成不可能、幸せには絶対なれません。


とりあえず、とりあえず、でも、

歩き続けていれば、

きっと、何か、よく分からないけど、どこかに着くはず。

そんな人生観、幸福観で生きていて、

本当に、どこかに着くのだろうか。


人生について考えると「何となく不安」になりますが、

それはこの、

何を目指しているのか分からないまま、

無意味な時間を過ごしてしまっているのでは・・・、

という、生きる「目的」が分からないことを、

心のどこかで気付いているからなのかもしれません。

そして、

分からないことを、分からないままにしていることが後ろめたかったり、

でも人生なんてそんなもの、とアキラメてたり、

探しても見つからないかも、と無駄な努力はしたくないと勇気が出なかったり、

そんな自己嫌悪の連続から抜け出せずに、

同じような毎日をくりかえしてしまう。


自分は「なぜ生きるか」を知らずに生きてきたのかと

ありのままに自分を認めるところが、スタート地点です。


目指すべきゴールがハッキリすれば、

一歩一歩が意味を持ちます。

一つ一つの苦労も、報われる苦労です。


そこまでひたすら進むのみ。





【行人 夏目漱石】
 自分のしている事が、自分の目的(エンド)になっていないほど苦しい事はない


【夢十夜 夏目漱石】
 どこへ行くんだか分からない船に乗っていた


【なぜ生きる】
 「およげ!たいやきくん」と、ゴールを知らずに走るランナー


【なぜ生きる】
 なぜ生きるかがわかれば、人は苦悩すら探し求める


【結論で読む人生論】
 そう、バカだったのだね君は。人生を舐めすぎていたのだ