今日は土曜日だったので部活は午前中のみ。
わたしの視線の先にはアップをする運動部初心者の井村加奈子がいた…。
動きは相変わらずぎこちない。
どう見ても他の新人3人といっしょに練習させるには差がありすぎるため、
直接指導をしている3年のまどかのところへ行った。
「まどか、井村を借りてっていいかな?」
まどかはわたしの意図していることがわかったらしく二つ返事でOKしてくれた。
わたしは井村を体育館の外に連れ出した。
体育館の側のベンチに腰をかけたわたしと井村…。
井村は不安げな顔でわたしを見つめた。
そしてわたしは体の筋を延ばしながら話しを始めた。
「井村は普段、友達からはなんて呼ばれてるの?」
『えっ?』
突然の質問に戸惑いながらも井村は答えた。
『カナ…とかカナちゃんですかね…』
「あ、そう…、じゃあこれからはカナって呼ぶね。」
『あ、はい…?』
わたしは別の質問を投げかけた。
「カナはどうしてバスケ部に入ろうと思ったの?」
「わたしみたいになりたかったから…?」
カナはにこやかな表情で言葉を返した。
『そうですよ。この前も言ったじゃないですか…、先輩みたいにカッコよくシュート決めたいからって…』
「ふ~ん…そうなんだ。」
わたしはこの答えに納得はできないからもう少し突っ込んでみた。
「少し厳しい言い方かもしれないけど、今のあなたじゃわたしのようにはなれない…」
「今まで別のスポーツ経験があるならまだしも、何にもスポーツ経験のない人が高校でバスケを始める?…
無茶な話しね…」
カナの表情が少し堅くなる。
そしてわたしは更に厳しい言葉を続けた。
「あなた、多分続かないわよ…このままでは」
カナはこの言葉に反応するように言った。
『わたしにバスケ部を辞めろって言いたいんですか!?』
「辞めろなんて言ってない…でも、練習についてこれない。」
とわたしが言うとカナは顔を真っ赤にさせて反論を始めた。
『そんなのやってみないと分かんないじゃないですか!』
「分かるよ、全然まどか先輩の言うこと聞いてないじゃん!」
「勝手なことやって、あんなんで上手くなると思ってるの?」
するとカナは唇を噛み締め、今までにない低い声で反論を続けた。
『わたしは…バスケを小さい時から見てきた…、知識なら誰にも負けない…』
その言葉に対してわたしは言い返した。
「知っているからと言って、指示を聞かないのはダメでしょ?」
「ましてや実際にバスケやるの初めてなんでしょ?」
するとその言葉が突き刺さったのか、カナの目に涙があふれた…。
『…先輩には分かんないですよ…。バスケをやりたくても出来なかったものの気持ちなんて!…』
「えっ!」
「出来なかったって?…どう言う…」
わたしは恐る恐る聞いてみた。
『……』
カナは何も言わず、ジャージのチャックを全開にし、下に着ている体操服をまくり上げた。
カナの体には胸の中央から腹部にかけての大きな手術跡があったのである。
わたしは自分のおろかさを悔やんだ。
「……」
ごめんなさいの言葉がでない…。
するとカナがゆっくりと話し出した。
『びっくりしたでしょ。わたし小さい時から心臓に問題があって激しい運動とか心臓に負担がかかることは
ダメだと言われてたんです。』
「だから体育なんかもいつも見学で…。』
『ところが小学校ある日、体育で上級生と体育館を半分づつ使うことがあって、その上級生たちの授業が
バスケですっごく上手い人が一人いて、その人の放ったスリーポイントがスゴく印象的でそしてたまたま
見学をしていたわたしの基へボールが転がってきて、そのボールを取りにきた人がその上手な人で…
わたしが興味津々で見ていたのを気づいていたのか、その人がわたしに向かって「バスケ楽しいよ。」
言ったんです。』
『それからわたしはバスケの虜になって、いつかやってみたいと思うようになったんです。』
わたしはその話しを聞き、思い出したのです…。
そしてカナはわたしに言ったのです。
『やっといっしょにできるようになりましたよ…先輩』