※この情報を鵜呑みにしないでください
むかしむかし。幻想郷(げんそうきょう)の中の、人間が住む処、人里に1人の少女がおりました。
名前を霧雨 魔理沙(きりさめ まりさ)と言いました。
魔理沙は道具店のお嬢様であり、とても愛されていましたが、
とある悪霊が魔法を使っているのを見て、魔法使いになりたい、と言うと魔理沙のお父さんは怒りました。
怒って、「どうしてもなりたいのなら出ていけ」と言ったのです。
魔理沙は言葉通り、家出をしました。
でも、ひとりぼっちな魔理沙にはこれから住むお家がありません。
魔理沙はもといた道具店で働いていた青年、森近 霖之助(もりちか りんのすけ)に頼ってみようかとも思いましたが、それでは家出したことにはならないのです。
魔理沙はいろんなところを歩き回り、ついには森の中にまで入っていったのです。
そこではたくさん迷いましたが、なりたいと思う切っ掛けとなった悪霊、魅魔(みま)に会うことができたので、魔理沙の居場所は見つかりました。
そう、魔理沙は魔法使いである魅魔に、弟子入りしたのです。
それからというと、魅魔と一緒に騒ぎを起こして、幻想郷を平和にする人間である博麗 靈夢(はくれい れいむ)に退治されましたが……
魔理沙はそこで初めて、靈夢という友達を得ました。
友達がいる楽しさを知ったのです。
初めて友達ができてから数年が経ち、魔理沙は師匠である魅魔から離れ、1人で暮らし始めました。
霧雨魔法店、というお店を始めたのです。
店員は誰一人いませんが、魔理沙は寂しくありませんでした。
幼い頃よりとても多くの友達ができたのです。
それも、人間だけに留まらず、多くの妖怪、魔法使い、妖精など……あげてもあげてもキリがない程にはいました。
そんな中でも、親友と呼べる存在がいました。
霊夢はもちろん、同じ人間の十六夜 咲夜(いざよい さくや)、魂魄 妖夢(こんぱく ようむ)、東風谷 早苗(こちや さなえ)、そして月兎の鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・いなば)。みんな、一緒に騒ぎを抑えに行ってくれた人たちです。
魔理沙はとても幸せでした。
ですが、それでも物足りませんでした。
そう、自分が幼い頃目指した魔法使いにはまだなれていないのです。
魔理沙はまだ、人間のままです。
魔理沙は悩みに悩みました。なぜなら、魔法使いになると大きくなれなくなり、霊夢達とは違う存在になってしまうからです。
でも魔理沙はどうしても魔法使いになりたかったので、魔法使いになるための薬を飲みました。
そうしたら、パワーがどんどん溢れてきて、みるみるうちに強くなっていきました。
でもそのかわり、失うものは大きかったのです。
咲夜が死んで、早苗が死んで。
そして初めての友達であった霊夢でさえも、死んでしまいました。
魔理沙は幼いまま。少女のままなのに親友は老いていって。
どうしようもなく、悲しくなりました。
魔理沙は助けを求めました。
唯一、人間の親友の中でまだ死んでいない妖夢に助けを求めました。
妖夢は人間でも、冥界、というところに住んでいて、半分は死んでいるので、魔理沙とは違い大きくはなれますが、大きくなるのが遅いので、とっても長く生きられるのです。
妖夢だって同じように、親友を失っているのだから気持ちを分かってくれるだろうと魔理沙は思いました。
ある日、魔理沙は通りすがった妖夢に悲しい気持ちで声を掛け、近くの椅子に座って悩みを打ち明けました。
妖夢は少し悲しそうな目をしながらも明るい声で、
「夢を叶えるには、失ってしまうものもあるのよ。魔理沙は今、夢を叶える為の代金を支払ったの。だからあとはもう、楽しむしかないのよ」
と、返しました。
その日はそれだけで終わりましたが、魔理沙はまだ心に悲しいものを抱えていました。
魔理沙は妖夢と会う度に、思っている事をそれはもうたくさん、話したのです。
霊夢達の事が忘れられない、どうすればいいんだ。とか、
笑い方が分からない、どうすればいいんだ。とか。
そういう事を話すにつれ、魔理沙の表情は明るくなっていく反面、妖夢の表情は曇っていきました。
笑顔で聞いてあげてはいましたが、妖夢だって悲しいのです。
いくら冥界、にいるとはいえ、いくら一時的に霊夢達に会う事ができたとはいえ、死んだという事実は消せないのですから。
それに妖夢にはそれ以上に、もっと悲しく、辛い事が起こっていたのです。
妖夢の近くにはお父さんもお母さんもいなくて、肉親であるおじいちゃんと主であり亡霊である西行寺 幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)しかいず、あとは見知らぬ霊達ばかりで。そしてそのおじいちゃんもどこかに行ってしまい、幽々子と妖夢、二人ぼっちになっていたのですが……
とある秘密を知った幽々子が成仏してしまい、心の拠り所がなく、ひとりぼっちになってしまったのです。妖夢が住んでいるところはとても広い和風の豪邸で、それ故にとても悲しいのです。
それも知らず、魔理沙は悲しいことをたくさん話し、心を晴れやかにさせました。
そして他のことを考える余裕が出てきました。道具屋で働いていた青年、霖之助の事です。
霖之助は自分でも道具屋、香霖堂(こうりんどう)を開きました。
そこで暮らしているのです。
実は霖之助も人間とはいえど長く生きる、半分妖怪の人間なのです。
魔理沙は霖之助の事をいっぱい考えました。霖之助のもとへいっぱい行きました。
妖夢のことは別段気にしていませんでした。
妖夢は1000年は生きる半分人間なのでそんなことでは死なないであろうと魔理沙は確信して
いたからです。
でも、妖夢は早く死にました。
孤独と失った事による心の痛みに耐えきれなくなり、生まれて150年程で死にました。
まだ魔理沙と同じような少女の姿のまま、死にました。
それも、冥界にいる人としてではなく、幻想郷の、人里の、人間界の、人間として。
妖夢は人間界に居すぎたのです。
魔理沙はまた、悲しみました。
妖夢はまた、魔理沙が悲しむという事を知っていながら死にました。
でも魔理沙には霖之助がいるので、大丈夫だろうと思ったのです。
―はい。
今回は魔理沙が夢の中で会いにきてくれたという話です。
盆に帰る気のない妖夢を見て、魔理沙は「何故帰らないのか」と訊いたら、
「誰も私の事なんて望んでいないから」といった素振りで返してきます。
何故なんだろう、と思い、考えました。
すると魔理沙が、自分は霖之助のことしか考えていないということに気が付くのです。
それに幽々子もいないし、妖夢のおじいちゃんは妖夢が死んだ事さえ知りません。
そう、妖夢は誰にも想われていないのです。
だから、妖夢は盆に帰れず。