今でこそBABYMETALを指して「メタル・ダンス・ユニット」とはほとんど言わなくなったが,2014年ごろまでは芸能ニュースで紹介される時はそう称されることが多かった。さくら学院というアイドルグループから派生した企画モノであることを踏まえれば,「メタル・ダンス・ユニット」とは実に分かりやすい呼称だったと思う。「メタルとアイドルの融合」「メタルレジスタンス」「世界征服」という一連のキー・ワードは今でも生きている言葉だが,BABYMETALの3人にとってもファンにとっても,デビュー当時と今とではその言葉に含まれる「本気度」と「リアル感」は雲泥の差だろう。
そんなことを思いながら,ふと感じた疑問がある。
「メタル・ダンス・ユニット」を標榜しながら全員がヘッドセット型のマイクではなく,SU-METALにハンド・マイクを握らせたのはなぜなのか。
メタルをバックに3人の可愛いアイドルがダンスをするなら,3人とも動きやすいヘッドセット型マイクで良かったはずだ。
中元すず香の歌声に惚れ込んだKOBAMETALが彼女ににメタルを歌わせたいと真剣に考えたことがBABYMETAL結成の1つの理由であることは周知のとおり。当時KOBAMETALがBABYMETALについてどこまで具体的なビジョンを思い描いていたかは「Only The Fox God knows」だが,SU-METALにハンド・マイクを授けたところにKOBAMETALの「本気」が見て取れる。
KOBAMETALは,SU-METALの歌をBABYMETALの軸に据えようと真剣に考えていた。目指すはメタル・サウンドをバックに歌って踊る,いわゆる「アイドル」ではなく,SU-METALの歌を武器にハイレベルなダンスと真性のメタル・サウンドで勝負する「オンリー・ワン」の存在。半分は冗談で,半分は本気。初期の頃のKOBAMETALの心境は,そんな感じだったのではないかと推察する。
もちろん,BABYMETALの成功物語に「偶然」あるいは「ラッキー」という要素が入り込む余地は大いにあった。『KERRANG!』の編集者がBABYMETALを発見したのはたぶんに偶然の産物だと言えるだろうし,大英帝国を皮切りにBABYMETAL旋風が欧米を席巻するようになったことについても「気づいたらこうなっていた」感がある。
しかし間違いなく言えるのは,少なくともKOBAMETALに上述したような「本気」がなければ,欧米での反応が今ほど大きくなることはなかっただろう,ということだ。よく言われるように,BABYMETALの歌とダンス,神バンドの演奏が「ホンモノ」でなければ,彼女たちは欧米のメタル・ヘッズからは見向きもされなかっただろう(とりわけSU-METALの歌声の素晴らしさと神バンドの演奏技術の高さがキモだ)。3人がヘッドセット型マイクを装着してリップ・シンクでパフォーマンスし,神バンドが不在でオケ音源使用だったら……BABYMETALが色モノで終わっていた可能性は十分にあり得たと思う。
「本気」「ホンモノ」という要素がわずながらにせよ確実に息づいていたからこそ,キツネ様はBABYMETALに微笑み,彼女たちは運を味方につけることができたのだ。SU-METALがハンド・マイクを手にして歌っていることには,そのような意味合いがあるのだと思う。
写真=Alison Clarkeのflickrより。