考察:BABYMETAL⑤/BABYMETALだけが何故オンリー・ワンになり得たのか | たろの超趣味的雑文日記〜本と映画と音楽とBABYMETALその他諸々

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2015年7月18日 Text by たろ a.k.a. TAROMETAL

Twitterでどなたかがつぶやいていた「BABYMETALがオンリー・ワンである理由」について考えてみた。

BABYMETALを語る時によく引き合いに出される「アイドルとメタルの融合」というコンセプト(のようなもの)は、実はそれほど珍しくはない。「アイドルが激しい音楽を演る」のも、大騒ぎするほど真新しくはない。「キツネ様のお告げに従い、メタルレジスタンスを敢行」という世界観も、さほど特別ではない。似たようなことを売りにしてきたアーティストやタレントは今までにもいたし(もちろん今だっている)、コンセプトに至っては、それがどんなものであるにせよ、なければ勝負のしようがない。

では、なぜBABYMETALだけが特別な存在になり得たのだろうか。BABYMETALがオンリー・ワンである理由は、いったい何なのだろうか。

……考えてみたのだが、結局のところBABYMETALファンであれば誰もが当然と思うようなことしか答えを見出せなかった。その点を踏まえて、この考察を読んでいただきたい。


Ozz Fest JapanのFacebookページより

BABYMETALがオンリー・ワンである理由は、ひと言でいえば「まったく新しいヘヴィ・メタルを創造してしまったこと」にあると思う(細かいことだが、意図して「創造した」というよりは、図らずも「創造してしまった」と言った方が正確だろう)。つまりSU-METALが常々言っているように「BABYMETALというジャンル」を創ってしまったということだ。唯一無二にして空前絶後。BABYMETALの前にBABYMETALなく、BABYMETALの後にBABYMETALなし。そのあまりに尖った個性がなかったならば、BABYMETALがここまでワールド・ワイドに支持されることはなかっただろう。BABYMETALの音楽がヘヴィ・メタルでなかったとしても同様だ。

もう少し細かく分析すれば、BABYMETALがオンリー・ワンである理由は3つ挙げられると思う。すなわち、①ヘヴィ・メタルとしての音楽の完成度の高さ、②アーティストとしてのスキルの高さ、③アイドルとしてのビジュアルの良さ、以上の3点である。それぞれについて詳しく見てみよう。

①ヘヴィ・メタルとしての音楽の完成度の高さ
そもそも論として、BABYMETALの曲はどれもメタルとしての完成度が高く、いわゆる「捨て曲」が一切ないということが挙げられる。1stアルバムが発売された時のキャッチコピーに「ファーストにしてベスト」というものがあったが、このコピーは絶対的に正しいのだ。

メタルの先人たちに敬意を払った王道メタルを軸にしつつ、そこにJ-POPやダンス・ミュージックなど様々なジャンルの音楽的要素を巧みに取り込んだ楽曲には、今までどんなアーティストをもってしても表現し得なかったオリジナリティがある。歌詞が日本語であるにもかかわらず海外のメタル系ジャーナリストやアーティストからこぞって絶賛される理由の一端は、そんな所にあるのだと思う。新しいが、どこかで聴いたことがあるような、それでいて徹底的に作り込まれた楽曲群。それがBABYMETALの曲なのだ。

曲そのものの質が極めて高く、しかも個性的。音楽で何かを表現するアーティストとして最も大切なそれらの要素がもし月並みなレベルだったとしたら、BABYMETALは「さくら学院の派生ユニット」で終わっていた可能性が高い。

②アーティストとしてのスキルの高さ
BABYMETALのアーティストとしてのスキルの高さは3つの視点から分析できる。1.SU-METALのヴォーカリストとしてのスキル、2.YUIMETALとMOAMETALのダンスのスキル、3.神バンドの面々の演奏力、である。それぞれについて述べる。

1.SU-METALのヴォーカル
SU-METALのヴォーカルがBABYMETALをBABYMETALたらしめている最大の要素の一つであることは疑いようのない事実だ。メタルの轟音の中にあってどこまでも突き抜けるような伸びやかさを持つ、凛として清らかな声。その華奢な身体から発せられているとは到底思えない圧倒的な声量。音程を外すことがほぼ皆無であり、ライブにおいて「まるでCDを再生しているよう」と言わしめる完璧な音感。自らの声帯という生身の楽器を操る天才。ゾーンに入ったSU-METALが歌う、バラード版"紅月ーアカツキー"(2013年12月21日の幕張メッセ公演"LEGEND1997")を聴くがよい。その声を聴く者は己の魂を心の底から震わせ、感動のあまり涙するのは確実だ。

2010年11月にBABYMETALとしてデビューした時、SU-METALは12歳の中学1年生。この記事を書いている今でも、まだわずか17歳である。17歳にしてメタル歴5年近くになるというメタル・エリートなのだ。大げさではなく、SU-METALは、いや、中元すず香は、日本の音楽史上にその名を刻むべき天才的ヴォーカリストである。

これはかねてからの持論なのだが、ファルセットやビブラートを使わずにストレートな地声で歌い上げるSU-METALのスタイルは、アメリカのメタル・バンドEVANESCENCEでヴォーカルを務めるAmy Leeに通じる。SU-METALの声はAmyよりも線が細く力強さに欠けるが、その清廉さと高音域の迫力はAmyをはるかに凌ぐ。同系統に属するヴォーカリストでありながら、微妙に異なる声質を持つSU-METALとAmy Lee。順調に経験を積み成長すれば、SU-METALがAmy Leeと並び評される日も近いだろう。

2.YUIMETALとMOAMETALのダンス
まず、そもそもダンスという振り付けのあるヘヴィ・メタルという時点で空前絶後だということを指摘しておきたい。メタルという領域において、決められた振り付けがあり、それを専門とするメンバーがいるというだけでも、BABYMETALは極めて特異な存在なのだ。

MCを一切挟むことなくおよそ1時間(最近は1時間30分ほど)をノンストップで突っ走るBABYMETALのライブが過酷極まりないものであることは、誰の目にも明らかだ。見る方も最後はヘロヘロになるが、ステージ上で激しいダンスを踊り通すYUIMETALとMOAMETALには相当な体力が要求されることは間違いない(SU-METALにしても、運動量はこの2人ほどではないにせよ、歌いながら踊るのだから相当な負荷がかかっているはず)。

2014年3月の日本武道館公演の頃までは、2人の体力は限界ギリギリだったと言わざるを得ないだろう。YUIMETALがステージから落下するというアクシデントによる精神的ダメージがあったとはいえ、武道館1日目の最後を飾る"イジメ、ダメ、ゼッタイ"でのMOAMETALはフラフラで、いつ倒れてもおかしくない状況だった。

ところがその後、同年7月のワールド・ツアーの頃から2人のパフォーマンスには明らかに余裕が見られるようになる。高校生になって文字通り成長し身体が大きくなり、自然と体力が付いたということもあるだろう。しかし恐らくは、相当ハードなトレーニングを課して体力強化に努めたであろうことは想像に難くない(かねてから2人は体力面の問題をさかんに気にしていたことは各種インタビューで明らかだ)。結果として2人のダンスはキレと力強さを増してダイナミックになり、体力的にも90分ノンストップのパフォーマンスを余裕を持ってやり切ることができるようになったのである。

そもそもダンスすることを想定していないヘヴィ・メタルという激しい曲に合わせて踊ることは難しいはずだ。それでも2人(というかむしろ3人)のダンスは一糸乱れぬシンクロぶりを発揮する。ステージ上を時に華麗に、時に力強く舞う3人の姿は、アイドルというよりはむしろアスリートのような空気をまとう。夏場のライブともなれば汗だくになりながらの全力パフォーマンス。BABYMETALにはストイックという言葉がよく似合う。

ダンスにはそれぞれの個性が光る。振り付けは同じでも、全体としてのテイストはかなり異なるのだ。YUIMETALは体育会系のノリ。スピードとキレが魅力だ。MOAMETALはクルクルと変わるその表情も含めて華やかな動きで魅せる。時に激しくカッコよく、時にコミカルかつキュートに、あるいはしっとりと……YUIMETALとMOAMETALのダンスは、BABYMETALのアイドルとしての可愛らしさとポテンシャルの高さを示す重要なパートなのだ。

SU-METALについても補足しておこう。SU-METALはYUIMETALやMOAMETALよりも背が高く、手足も長い。したがってダンスの迫力は必然的に2人を上回る。2014年のワールド・ツアー(フランスとドイツ)で披露された"ヘドバンギャー!!"ではヴォーカルを2人に譲って"スクリーム&ダンス"に専念したが、その時に見せたSU-METALのダンスは実にダイナミックで印象的だった。

3.神バンドの面々の演奏
いわゆるバックバンドである神バンドの面々の演奏スキルが極めて高いこともBABYMETALの個性の1つだ。ベースのBOH、ドラムの青山英樹と前田遊野、ギターの大村孝佳、藤岡幹大、Leda。みな超一流のセッション・ミュージシャンで、抜群の安定感とハイレベルな技巧でBABYMETALのステージを支えている。

BABYMETALの曲には「ミュージシャン泣かせ」な難曲もあるが、ステージに立った神々はプロとしての本領を発揮。フロントの3人に負けず劣らずの笑顔を交え、原曲を忠実に再現してみせる(傍目にはやすやすと)。

たとえば"Road Of Resistance"はDragonForceのHermanとSamによる曲で、そのままDragonForceのアルバムに収録されていてもおかしくない超絶メタル曲だ。BABYMETALの神々はそんな曲をも(これまた傍目には)なんなく弾き倒す。DFの曲と言えばメタル界でも屈指の難曲で、人間離れした超絶技巧が特徴。神バンドの演奏スキルは、DFに勝るとも劣らないレベルにあると言える。

神バンドが世界でもトップクラスの演奏スキルを備えているからこそ、耳の肥えた海外のメタラーもBABYMETALの音楽を「本物だ」と納得して受け入れてしまうのだ。

③アイドルとしてのビジュアルの良さ
これはBABYMETALの音楽性とは無関係だが、SU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALの「アイドルとしてのビジュアルの良さ」「アイドルとしての魅力」もまた、BABYMETALがBABYMETALたる所以である。

3人とも成長期限定のアイドルグループ「さくら学院」の卒業生である。さくら学院は単なるアイドル・グループではなく、アイドル養成所的な役割もある。さくら学院のメンバーとして活動することを通して、一流のアイドルとしての考え方や振る舞いを身につけるのだ。ゆえに3人は、そもそもアイドルとしてエリートなのである。

SU-METALはしばしば「イケメン」と言われるくらい凛々しい美少女だ。しかも単なる美少女ではなく、聖なる少女ジャンヌ・ダルクや神話にでも登場しそうな女神を想起させるほどの神々しさも併せ持つ。そんな壮絶なまでの美しさを持ちながら、中元すず香としては「CD」の正式名称を「コンパクト・デロリアン」と大真面目に語るほどのポンコツぶり。このギャップがSU-METAL最大の魅力とも言える。

YUIMETALには天使という言葉がふさわしい。そのあまりに可愛らしい天使っぷりを指して、ファンは「由結ちゃんまじ由結ちゃん」と言う。YUIMETALでいる時も水野由結でいる時も変わらずマイペースぶりを発揮することが多々あり、「舞踊の天使」としてステージ上で見せるキレキレのダンスとのギャップがまた魅力(そう、BABYMETALの魅力は間違いなく「ギャップ萌え」にある)。

MOAMETALは「アイドル・モンスター」だ。菊地最愛として「アイドルが大好き」ということが根底にあるのだろうが、当の本人がまさにアイドルの理想形。トークも秀逸、仕草も完璧。その一挙手一投足はすべてが計算され尽くしているかのよう。そして何より場面に応じてクルクル変わるその表情が、見る者の心を瞬時に射抜く。これぞまさに「愛の天使」の面目躍如。

3人ともソロのアイドルとして十二分に活躍できるだけの「アイドル性」と「タレント性」を有している。そんなアイドルとしてのエリートが三者三様の魅力をBABYMETALという1つのパッケージの中で発揮しているところもまた、BABYMETALが見る者を強烈に引きつける理由なのだ。

さらに付け加えるならば、美しいのはビジュアルだけではない。BABYMETALを結成するまでは無縁だったヘヴィ・メタルという音楽に真正面から向き合うその姿勢。待っているファンのためにという一心で妥協することなく真摯に努力を重ねるそのプロ意識の高さ。「大人」である神バンドの面々が「SU-METALさん」「YUIMETALさん」「MOAMETALさん」と尊敬の念を込めて「さん付け」で呼び、ことあるごとに3人のプロ意識の高さを賞賛しているという事実が、彼女たちの美しい生き様を物語っていると思う。

以上見てきたように、BABYMETALがオンリー・ワンな存在である理由、あるいはBABYMETALだけがオンリー・ワンたり得た理由は3つーー①ヘヴィ・メタルとしての音楽の完成度の高さ、②アーティストとしてのスキルの高さ、③アイドルとしてのビジュアルの良さ、である。もちろん異論はあるだろう。あるいは「そんなことはわかりきっている」と感じる人もいるだろう。それでも語らずにはいられないーーそれもまたBABYMETALの魅力なのである。