「ネット評判社会」 | Jiro's memorandum

Jiro's memorandum

泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

★★★★★

この本は非常に面白いです。

社会構造には日本に代表される安心社会と、アメリカに代表される信頼社会があります。これは「日本の「安心」はなぜ、消えたのか」での議論と同じで、もう一度簡単に説明すると「安心社会」とは悪事を働くなど秩序を乱すと疎外され生きていけなくなる閉鎖的コミュニティの中ではメンバー全員が集団に忠実になるという社会、「信頼社会」は開放的な環境を前提に信頼できる相手と積極的に取引拡大を志向する社会です。

インターネットはまさに開放的な市場であり、「信頼社会」の社会的知性が求められます。つまり、相手が信頼できるかどうかを見極める能力が必要になる。しかしながら、本書では様々な調査や実験を通じて、日本人は他人を信頼しないし他人を目利きする能力も劣っていることを指摘しています。集団に忠実でさえいれば安心なので、他人が信頼できるかどうかに日本人は無関心だと。

ただ、テクノロジーによって人類は、鳥のように空を飛ぶことができるようになり、チーターよりも速く走れるようになったのと同様、他人を見極める能力についてもインターネットを中心とした評判システムが代替してくれる可能性があると本書は結論づける(実際、ネットオークションなどにおける評価機能は役に立っている)。さらに、他人が信頼できるかどうか判断できない日本人は、(その分必要性があるので)逆に新しい安心社会の構築に最初に成功するかもしれない、と。

ただし、自分も含めて人の評判が広く公開されてしまう安心社会は、究極の窮屈社会になるかもしれない。新しい安心社会がユートピアになるか呪いとなるか。テクノロジー次第である。

やや予断だが、顔面筋の測定機能をつけた眼鏡をして人と会話をすれば、リアルタイムで作り笑いとか浮気の嘘とか全部ばれてしまうらしい。便利なような味気ないような世の中だ。

正直に生きることと、システムに頼らない対人関係能力を養うこと、はやっぱり大事じゃないかと思います。


◇参照
「日本の「安心」はなぜ、消えたのか」


ネット評判社会 (NTT出版ライブラリーレゾナント057)/山岸 俊男

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