弟九十八回 夢十夜 | マタタビ堂  

弟九十八回 夢十夜

こんな夢を見た是清です。


大学の推薦入試を駄目元で受けるという


友人の依頼を受けまして


自己紹介文というものを書いてくれないか?と


十年前に言われたことを十年ぶりに思い出して


これをしたためています。


T 「自分のことなんて書けねえって」


彼は愚痴ります。


僕らの教室は三階にぽつんと一室だけ


ありまして、屋上と繋がっていました。


そこで箒と新聞紙で作ったボールで


野球なんかやりながら語りました。


僕 「じゃ聞くけど、お前特技は?」


T 「ギター」


僕 「嘘つけ」


T 「これから覚える」


昼飯を奢ってもらうことで手を打ちました。


とにかくなんでもいいから形にしてくれと


言われて、古典の授業中ノートに書き込みました。


確かこんな内容にしあがりました。


自己紹介文 三年三組 T田T雄


僕の趣味は園芸です。


花が無頼に好きです。


僕の一日は毎朝、ベランダの植物たちに


「おはよう」と声をかけることからはじまります。


朝露を受けて植物たちは心なしか微笑んで


くれているみたいに見えます。


僕は挨拶も大好きです。


毎朝クラスのみんなと一人残らず挨拶を交します。


「おはよう」


そして


「さようなら」


挨拶は生きていく上で基本だと父から教わったのです。


僕はみんなによく「さわやか」だとか「清清しい」とか「神々しい」


とか言われます。


特に担任の清川先生には


「君はまっすぐ伸びた一本の青竹のようだ」


としょちゅう言われて照れることもしばしばです。


もし大学に入りましたら


この優位な人格を生かして校内の美化活動に


取り組みたいと思います。


昨今、大学生は怠惰で分数さえろくに出来ないらしい


じゃないですか。


僕としてそれはありえないです。


僕は竹のように真っ直ぐで、しなる強靭な精神を


大学で磨き上げ、社会有為の人材になること


請合います。


昼休みに見せると以外に「ふうん」といった按配で


彼はそのまま提出してしまいました。


目を通した清川先生もずいぶんいい加減だったな。


翌週の月曜日。


面接を受けてきた彼に聞きました。


僕 「どうだった?」


T 「うん。面接官?受けてたよ」


僕 「そうか、よかったな」


T 「おう」


結局彼はその大学に進むことは出来ませんでした。


少なからず僕のせいなのかもしれません。


今思うと。


彼は一年浪人して歴史を学ぶために


四国の大学に進学しました。


推薦で受けた学部は商学部。


あやうく道をそれるところでした。


そういう意味ではあれは役にたったの


かもしれません。


今日の一言


       「少年は大志を抱き方程式を問く」


                        ニッポンのヒール